人混みのおはらい町通りと、閑静な五十鈴川を結ぶ町屋。
それでも、周辺に川への視線を意識した家は少ない。
対岸は内宮の神域で、殊に川沿いのモミジは、秋に真赤に色づく。
清流と山並みに、この空間が対峙する。
<1階客座から川方向を望む>
○内部―川との一体感
内部は一転して、川と相対した関係で成り立っている。
日本の伝統的な構造体を採用しているものの、空間は現代の解釈で作られたものであり、川を挟んで対岸の自然と一体になることに絞って全体を構成している。
川に向かって座を段状に設えることで、内部に川への方向性が生まれ、突端のガラス面は川面と対岸の緑を丸ごと室内に取り込む。
<通路から格子越しに世古を見る>
○世古との一体感
北側の世古に面して、内部に通り土間を設けた。
世古と接することで、生活と密着した豊かな地域の表情を取り入れたい。
また通り土間によって屋根高を下げることで、北側の隣家の日照にも配慮した。
後年、隣家の建て替えによっては世古が活性化する期待も込めて、世古に面する外観にも神経を傾注した。
<客座の構成を見る>
○建築形態
我国の伝統的な建築形態を取り入れ、伊勢の地域性を心掛けた。
しかし伝統に埋没するのではなく、伝統を活かして現代の空間を構築したい。
本計画は、単一的な木組みの架構ではなし得ない空間であり、木を組む知恵と形態が合致してこそ、現代の空間も構築できる。
木を自在に扱うことが日本の伝統であって、教科書の木組みだけでは自由な空間はできない。伝統における創造を信念に、小さい建築ながらもきめ細かな空間に仕立てた。
<2階客座から川と山並みを見る>
(前田)