「う~ん」。どうも気に入らないらしい。
今では、図面を見せたときの反応で相手の可否が分かる。
こちらも動ぜず、ひと呼吸おきながら、感じたことを伺っていく。
具体的な形を前にすると、気付いたことが初めて言葉になる。
・話し声が筒抜けに聞こえると、子供が迷惑を掛けるだろう。
・吹抜を回ることで動線が長くなり、デメリットを感じる。
・北側がマンションなので窓を開けたくない、北部屋はやめたい。
・こんなに部屋はいるの?
・車は2台分、屋根付きでほしい。
また、ご両親は日本的な間取りを希望で、
・庭に面して廊下を付けたい。
・客間は南側に、日当たりが良いところにしたい。
・リビングより、茶の間スタイルが希望。
などが主な内容だった。
また両家族とも、家族が集う場所は是非とも確保したいという。日の射すところで子供を遊ばせ、自分たちもくつろぎ、家族や親戚、友人たちが心おきなく集う空間を作りたい。
確かに2家族が鍵掛けて、別世界で住むのは好ましいとは思えないし、そのためにはどういったあり方が相応しいのだろうか。両家族の生活ゾーンはどう繋がるのか、つかず離れずが理想だが、再度要望を踏まえて建築家として好ましいあり方を提案して欲しいと託された。
アトリウムの構想は、思いとして受けとめられたようだ。
また、当初の要望の部屋数や広さは大きすぎたと納得され、全体配置の中で納まる形を優先させて欲しいという。暫しご猶予をと、意見を承って別れた。
プランは、こうした過程を幾たびか経ながら固まっていく。
先のような展開を生むには、インパクトある案は有効だったし、家族にとっても創造の幅が広がったと思う。家を建てるにはさまざまな制約を受けるが、その中にあって、求める暮らしの本質に辿り着くよう峻険させていくのが計画段階である。
そのためには、時には制約の垣根を壊して創造の羽を広げ、広い目で将来を見つめながらも、日々の生活を探究する姿勢が、新たな暮らしを創造する。
思う気持ちは少しずつでしか表面化しない。自分が生きてきた体験を根底に、未来をどう暮らしていくのか、単純に答えなど出るはずがない。
時間を掛けながら意見を聞き出し、納得しながら未知の世界を開いていく。
その積み重ねが計画段階に求められる本質であり、家を作るということである。
対話を重ね幾案かを書き示し、直しを繰り返しながら、次第に形になっていった。
次回は平面を紹介しよう。
(前田)