東京で住宅の現場が始まった。
ホームページから訪ねてくれた方で、是非とも木の家を建てたいという。
若々しい30代のご夫妻である。
<建て方の風景>
初めて訪ねてこられたのが一昨年の春のこと、電話の問い合わせに概略をお話した直後だった。まだ若いご夫妻ながら言葉使いも丁寧で、何より自分たちの目的をはっきり持っていた。
私たちのスタンスも披瀝し、住まいについての想いや考えを虚心坦懐に話した。会話の端にも暖かさを感じたが、翌日再び連絡を頂き、正式に依頼を受けた。
具体的にと土地の図面を見ると、場所は都心の一等地に広さも申し分ない。早速その場で要望をお聞きし、ひと案拵えて持参した。
それから暫くしてだろうか、恐る恐るといった電話があった。
今から二世帯にできるでしょうか、語り口に私を気遣う気持ちが伝わってくる。聞けば、これだけの土地に私たちだけで住むのは勿体ないと、持参したプランを前に奥さまが提案したらしい。
瞬間、家族の姿を見た気がした。
当然奥さまには義父母にあたるわけだが、それで良いのだという。
<依頼のきっかけになった家>
以来、二世帯の住まいを模索しながら、一年掛けて基本設計を練ってきた。
要望を私らに的確に伝える努力を怠らず、打ち合わせのたびに熱心な討議になる。ひとつひとつ納得を重ねながら、私の意見も大いに尊重してくれた。またそれを知るご両親も、若夫婦に任せて一切口出しをしない。
当初の志を曲げることなく、次第に計画が形になっていった。
ある時、一貫したそれらの姿勢に家内がふと、”家風”を感じるよねというようなことをいった。紆余曲折があったが、気持ちを途切ることなく纏められた原因がこれかと、言い当てて妙だった。
めっきり聞かなくなった言葉だが、確かな家族の姿は私も感じていた。
最終段階でご両親ともお会いしたが、まさに親子の姿が重なり、家族の絆を目のあたりにした。大切にしなくてはならないものを大切に守る、そういうしっかりした日常がS家にはあるのだろう。
昨年末には若夫婦にお嬢さんが生まれた。
二世帯三代の住む家となる。
掲載のお許しを頂いたので計画の段階に遡り、少しずつ紹介しようと思う。
(前田)