抑制された玄関ホールの引戸を開けると、途端に大きな空間に放り込まれる。
T邸のリビングである。
およそ3間四方の空間に、上階を吹抜くダイナミックな架構を現しながら、南西に向いた窓からは燦々と日差しが差し込む。光は木肌を屈折しながら屋根裏にまで達し、全体を仄かに紅色に染める。
<ホールからリビングを見る>
リビング、ダイニング、階段、廊下と、全体がこの吹抜を通して繋がっている。リビングに入ると、上階を支える丸太の胴差しが印象的に目に飛び込んでくる。天秤に力を担わせた丸太の小口が真中に現れ、八角に整えられた丸太の胴差しを支える。
その梁を受けとめ、家の中心を貫く地棟梁を支えて太い大黒柱が立つ。
欅の7寸角が、堂々とこの吹抜を纏めている。差した丸太の臍(ほぞ)は大黒を突き通し、楔を打ち込みとめている。引戸際から延びる赤松の胴差しは、吹抜を縛りながらも動線を分離し、それに沿って階段が掛けられる。
この大黒柱を中心に、リビングの背景となる壁が矩の手に回るのだが、この壁がリビングの要となることから、石を張って重量感を持たせた。
表面に荒い凹凸がある厚みを持った石だったので、柱のチリ寸法との兼ね合いなど、現場は相当苦労したらしい。
しかし労苦に報いる効果はあった。
<リビング東側を見る>
東に向かい、階段裏の廊下を挟んで和室が接続するのだが、若干のズレを持たせて繋げることで、上下に連なる開口を取った。下階は和室前の濡縁に出られるのだが、リビングのソファーからは、濡縁前の刈込み越しに石肌を伝う滝まで見通せる。上窓からは建物の隙間を通して朝日が差込み、角度を徐々に変えながらリビングに光を落とす。
ズレによって生じたこの窓が空間に与える影響は大きく、この抜けがリビングに爽快感を与えているのは間違いない。午後に掛けては南西に開けた大きな窓が日差しを受けとめ、日中刻々と変化する光を、多彩な窓からリビングに注いでいる。
<上下の連窓>
折置きに組んだ小口を外観に現しているのがこのリビングに掛けられた梁で、地元産の赤松、百年ものの丸太を八角に削って整えている。
直行する地棟梁に頂部を掛け、リビングの両端には、この地棟梁を持ち上げるように強い曲がりの丸太が支える。
内部は色付けをしないことを原則に、屋根裏の杉板も赤味と白太を混ぜて張っている。竣工間もないのでパッチワークのようなアクセント模様になっているが、これも早晩、日に焼けて色味が揃うだろう。
かつて大黒柱には大黒を祀り、内部の中心的な象徴性を高めるとともに、家の守り神的な存在としてシンボル化されてきた。大黒柱に頭をあてて座ったときの、あのひんやりとした中にも暖かみが伝わってきた子供の頃の体験が、今も忘れられない。
また、自然の大きな木を梁に組むことは、構造体の耐力もさることながら、これを仰ぎ見る安心感は格別で、日常に暮らす生活にも少なからず影響を与えてくれるだろうと期待している。
日本の家が備えていた矜持を、ここで育つ子供にも伝えていきたい。
<屋根裏の架構>
(前田)