若い家族が住むT邸だが、改めて計画について紹介しよう。
建築主はまだ20代後半、それでも木の建築を望まれた。
以前、当地で建てた私の住宅を見て気に入ってくれたらしい。
建築に当たって父上からは、手頃な値段でということを強く念押しされた。
<T邸外観>
敷地は新興住宅地内にあり、周辺の開発がようやく緒についた開発区域にある。
南に面した土地は充分な広さを持ち、周辺からも特に制約を受けることはない。
高低差もない平坦な地盤で、地耐力などにも問題はなかった。
これだけの好立地、プランもさぞ簡単にと思いきや、なかなか決まらなかった。当初から予算が課題で、実は坪60万で、という命題が与えられていた。
この恵まれた環境を活かそうと悩むと、無意識のうちに大きく難しくなってしまう。練っては壊しを幾度繰り返しただろうか。最後に決着を見たのが、このプランだった。
コンパクトに纏めることを心掛け、なるべく凹凸ない形をと、厳しい予算と空間との折り合いを図った。それでも木の建築としてどこまで出来るのか、格闘はまだ始まったばかりである。
周辺が定まっていない今の時期に、前面道路に正面を向けるにはためらいがあった。まばらな周辺環境ということもあったが、閑散とした周囲から守らねばという意識が、計画する根底に強く作用したように思う。
前面を閉じた構えとしながらも、堂々としたアプローチを設けて透けを作り、場所がら4台が停められるようにという条件から、道路側に駐車スペースをとる。
植込みで囲んだアプローチは、周辺環境から住空間を切り取る役を担い、雁行し屈折しながら辿り着く玄関を開けると、その延長に芝生の主庭が拡がるといった展開が待つ。合目的的な視覚の変化による楽しさは、空間に広がりや豊かさを生むと期待してのことである。
また周辺を断ち切ることで、プライベートな外部空間としての庭が確保でき、玄関から土足のまま繋がることで、外来者を不自由なくこの庭に案内できるメリットが生じる。
まさにここは、外部の居間となるわけだ。
外を内なる空間と結びつけたい、若い家族同士の交流や、子供たちとの触れ合いに、こうした場所を大いに活用し、生活を楽しんでもらいたい。家は活用するためのもので、結して飾りものではない。腫れものに触るような住まい方では息が詰まる。積極的な使い方こそ、暮らしの楽しさを育くむ第1歩である。
玄関前の戸外は伸ばした屋根が深く掛けられており、より濃密な半内部空間として、アウトドアリビングの性格を担保してくれるだろう。
内部はワンルームのリビングを中心に、ダイニング、キッチンへと繋がる。
リビング上部は大きな吹抜として上階と繋がり、濡縁上の窓からは朝日が燦々と注ぐ。射す光は刻々と移り変わり、リビングにさまざまな表情を与える。
和室は独立性を持たせた8畳敷、前面には広い濡縁を跳出し、植込みに繋がる。
<T邸リビング周りを望む>
変哲ない四角なプランだが、屈折した動線とわずかな配置のズレが、思わぬ景色や陽差しを取込む役を果たし、ともすると単調になりがちな空間に少々の味付けを施している。また柔軟に使えるよう、パブリックな領域は仕切を設けずに繋げている。
コンパクトな空間をより広く、豊かにと、積極的に外部との交わりを求め、各所に設けた視覚的な抜けや、抑制から開放への突如とした変化など、全体に静動強弱を付けて纏めている。
コンパクトな中にも、空間の展開は無限にある。
工事はこれからで、まだまだ予断を許さない。
完成後、改めて各所を紹介したい。
(前田)