茶の湯の露地 1.

石巻、森別邸の続きを。
敷地の感覚を身体に馴染ませようとするが、漠然とした広さに戸惑う。
手始めに気になる滝口を直し、点在する庭石の除去を命じた。
並行して広間の改築にめどを立て、茶室周りから作庭に取り掛かった。
茶庭は人の寸法に最も近い。

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茶室での茶事には、この露地が欠かせない。
ここでは、時に広間が寄付に併用されようが、露地を経て、客は茶室へと導かれる。この一帯が茶苑として整えられることで、大きな茶の湯の舞台となる。
浮世を離れ、清廉な時の場が演出される。
まず植裁の前に、露地の伝いとなる飛石を打つ。
並べるのではなく、打つのである。こうだという力強い意志が、石を置く背景にあるからだろう。この”伝い”が露地には最も大切で、歩く中で次第に精神を集中し、茶の湯の世界へと向かう道行きとなる。
眺めみる庭とは異なり、そこが一般の庭との大きな違いである。
腰掛けから茶室まで、距離にして10mあまりだが、慎重に運びを模索する。
ただ動線を作るのではなく、歩々刻々とかわる景色や、茶室の見え方、周りとの関係性などを考慮し、細心の注意を払って決められねばならない。
また露地における、亭主の初の所作に、「迎付け」がある。
席中の用意を調えた亭主は、腰掛けで待つ客を出迎えに行くのである。
この場所が「中門」と呼ばれるところで、ここでは枝折戸を用いた。
亭主は露地を降り、中門へと歩み扉を開け、主客無言で挨拶を交わす。
「これよりどうぞお入り下さい」、という亭主の気持ちが、この所作に現れている。
客も相伴ともども、同時に挨拶を交わすのである。

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                 <植裁前の中門付近>
まだ枝折戸は付けられてないが、四つ目垣が結界を現す。
全体をまとめて露地と称すが、特に結界手前を「外露地」、内側を「内露地」と呼ぶ。茶室に行くに従い、次第に濃密な空間に整えねばならない。
手前に、小さな石を集めた飛石が見えるだろう。
これを延段(のべだん)といい、飛石に相まって打たれる。飛石だけの単調さを破り、歩きやすさを与えることで、意匠と伝い、両面の機能を補完する役割がある。
ここでは迎付けの挨拶に、相伴者の連なりになるよう打ってみた。
天端が平たい、人の拳程度の石を並べ、石の間に苔を貼る。単純なようだが、これらの石も容易には手に入らないし、延段を打つにも、かなり神経を集中させねばならない。
自然の石に、同じものはない。
それを歩きやすく打つには、慎重に石を選び、配る目が求められる。
大きさは歩幅に影響を与え、歩幅は歩く人の集中力に影響を及ぼす。
露地は、伝いが勝負といわれる所以である。
  (前田)