四季の室礼<冬>

また残暑が、このところぶり返してきています。
皆さま如何お過ごしでしょうか。
季節とは正反対ですが、話の流れですのでご容赦下さい。
「四季の暮らしと室礼」、冬の室礼を講義の内容からお届けします。
 ~ 四季の室礼<冬> ~

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このような光景を、最近は見なくなりましたね。
私の住んでいる周りも、かつてはこういう家がいっぱい軒を連ねていたのですが、今ではほとんど見かけなくなりました。柿を干すと甘くなるなんて、子供心にも手品のように感じたのを思い出します。
食の知恵が村落を彩る、そんな光景なんて素晴らしいですよね。

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格子越しにみる明かりです。
これが室礼かと問われれば些か躊躇しますが、こうした光景に接すると、心が優しい感じになるのは私だけではないと思います。日本の照明はこのところの温暖化の影響もあって、白熱球から蛍光灯へと変わってきました。でも白熱球の明かりの柔らかさは、何ものにも代え難い雰囲気ですよね。
灯した明かりが格子裏の障子を照らし、拡散した光が外に洩れる。
格子からこぼれる明かりが、街にとっての行灯のようになっているんですね。
とても蛍光灯の明かりでは、こうはいきません。
街にとって、情緒深い装いの好例だと思います。

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これは、とある茶会での写真です。
夜にこうして開く茶事を「夜咄(よばなし)」と呼びます。今では真冬に行われる茶事として催されています。茶事では2刻といって、今でいう4時間を超えないように茶事を行うのを常としますが、この夜咄だけは夜を徹して行ってよしとされているようです。
部屋の明かりは、このように行灯と燭台だけ。
小さな明かりですので、天井の四隅には闇が拡がり、見えない闇の存在によって、一段と部屋が大きくなったように感じます。私も実際に触れましたが、湯気の香り、釜の音、漆黒の碗に口を付けたときの味覚など、五感が極度に敏感になったようで、あまりの美しさにすっかり上気してしまったのを覚えています。
部屋の明かりを消して、たまにはこうして明かりで食事をしてみる。
それだけでも、随分と違った世界が見えてくることと思います。

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これは歳末の床の風景です。
床に掛かる軸には「無事」、などの言葉が掛けられます。
一年を無事に過ごせたという感謝の気持ちと、最後まできちんと締めくくりたいと願う心情からでしょう。こうした言葉によって季節を感じ、我身の心持ちを振り返る。床の間は単なる物置ではなく、こうした演出を通して、季節を身近に捉える場なんだということなんですね。

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それが正月を迎える頃ともなると、一気に華やかさが加わります。
これは餅花というもので、五穀豊穣を願う気持ちが生んだ室礼なのでしょう。
関東の方では繭玉という呼び名がつけられている場所もあって、養蚕の盛んな地域が今年の無事を願ってこうした飾りを行い、新年を祝ったのだと思います。
室礼には、こうした”祈り”という存在も大きく拘わっており、年中行事と共に私たちの暮らしに大きな影響を与えてきました。

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冬の室礼に限ったことではありませんが、花は室礼にとっても大きな存在です。
生け花の流派はもとより、花が一輪あることによって受ける空間の印象がどれだけ違うかは、皆さんもご理解いただけると思います。床の間に置く花の姿はご覧になると思いますが、左の写真のように、床柱に花入れを掛ける飾り方もあります。こうすることで、床の構成が立体的になって、見る人により空間を豊かに感じさせるんですね。
右の写真は、千利休が作ったとされる茶室、”待庵”の床です。
このように土壁の床の間の壁に、花入れを直に掛ける。こうした試みが行われました。
いわば軸と同等に花を愛でた、ということなのでしょう。
利休は「花は時の賞翫」といっておりまして、とても花を大事に扱ってきました。
根を絶たれた花が、今の時を精一杯咲く。
その姿は何ものにもまして尊いものだと思ってのことではないかと思います。

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これは床の中から釣ってあり、これを釣船の花入れと呼んでいます。
このように床の間には、花を飾るために多くの釘が打たれているのです。これも、自由にその時々の感興によって花を扱うことが出来るようにという、花を愛でてきた日本人の室礼の知恵だと思います。
もうひとつ、昔は花を人に贈るのは、一輪が原則でありました。
それを紙で作った折り形に入れて贈りました。利休の弟子である古田織部は、たとえ蜘蛛の糸が絡んであってもそれを取ってはいけない。それが何より新鮮な証なのだからと、手折った枝そのままに届けるのを良しとしていたほどです。
こういうふうに暮らしが出来たら、さぞや良いだろうなあと思いますね。
なかなか出来ませんが、まずは我が家の明かりを落としてみるか!
今でこそなくなりましたが、むかし停電の時に蝋燭を灯した時のことを思い出しました。
ちょっとした意識の変革が、普段の暮らしに活かすことが出来る要素がいっぱいあるんでしょうね。
次回は、ー四季の暮らし<春>-です。
  (かりの)