「四季の暮らしと室礼」、前田さんの講義も具体例に入ってきました。
やはりこういう写真付きが、一番分かりやすいですね~。
と、いうと前田さんに叱られそうですが、どうぞ皆さんもご覧下さい。
先回の続きで、室礼に道具がどのように使われているのか、といった紹介です。
当然代表的なものしか時間の都合上無理でしたが・・・・。
それでは、どうぞ!
~ 室礼の中の道具 ~
それではここで、日本の道具が室礼の中でどのように使われているか。
写真を例に見ていきましょう。
これは「几帳(きちょう)」と呼ばれるものです。
今はテレビの時代劇か、よほどの料理屋さんに行かないと見られなくなりました。特に平安時代は、まだ障子とか襖といった建具がなかったものですから、こうしたもので空間を仕切っていました。
源氏物語には、この几帳の用法が何と107通りも出ているそうで、それほど身近な道具であったと同時に、物語の構成に重要な役割があったということなのでしょう。恐らくその使い方、用い方に、格式やセンスが問われる、といったものだったのではなかったかと思うのです。
下がっている布を”帷子(かたびら)”と呼び、夏冬はもちろん、行事によってもさまざまな変化があったようです。
これは、とある家の玄関の室礼です。
左は玄関の間に衝立を立てて結界を設け、その前に立花を飾っています。
こうすることで、ひとつの空間に”場”が生まれるのが分かるかと思います。背景を整えることで、そこに場を演出する。日本の道具の使い方のひとつの特徴です。
客を迎える心憎い室礼が、こうして生まれるんですね。
右は、これは民家の玄関、といっても大きな家の玄関ですが・・・・。
このように何げなく火鉢をおき、鉄瓶から湯気が出ている。この光景も立派に客を迎える風情を演出しています。京都では茶家といわれる構えの家でも、このように玄関に火鉢や煙草盆がおかれることで、迎える姿勢を示している好例も見られます。ごちゃごちゃ飾り付けない、静かな場の演出ですね。
部屋の中心に道具をおいて求心性を持たせる。そこに客が使う道具をおくことで、客のための室礼になる。そういう道具の使い方です。
これは屏風の室礼です。
左は、主室の次の間に屏風を立てて大きな”場”を構成し、その前で師匠に稽古を付けていただく。そんな場面でしょう。
改まった場の演出ですが、こうすることで座敷にその時々の緊張感が作り出されて行くんですね。この屏風を取った風景を想像すると分かりますが、なにも変哲ない普通の日本座敷です。そこに道具を設えることで、ピリッとした空気が生まれるんですね。この写真からもそれが伝わってきます。
右の写真は、よく座敷の片隅に作られる光景です。
矩折れの屏風をおいて、飾り台に花を活ける。こうすることで床がない座敷なら、立派に床に変わる空間が生まれます。またこの屏風には”衣桁”という着物を掛けておく図案が書かれていますが、こうしたダイナミックな図案が結構多いのも、日本の特徴です。特に町屋では、砕けながらも大胆な柄で場の演出を楽しむ風潮があったようです。襖紙の図案にも、その特徴が伺えます。
これは仏壇飾りです。
皆さんの家にも、おありの方が多いと思います。室礼とは関係ないかも知れませんが、家の中でこうした場所を持つ、ということが日本では古来から行われてきました。
こんな言い方をしては失礼ですが、必ずしもみんなが純粋な仏教徒ではない。しかし、毎朝お水を代え、お供えをして手を合わせる。こうした日々の行為が私たちに自分の歴史を教えてくれ、また記憶と対話をする場所として、暮らしの根底を支える大事な空間となっているように思います。
左は何げない壁を利用した、飾り方の例です。
3尺ほどの壁にこうして軸を掛け、前に経机をおき、香炉と一輪挿しを立てる。
点てたお茶をお供えすれば、これで立派なお祀りの場所になるんですね。こうして壁を床に見立てるのを「壁床」といいます。
このような”見立て”が室礼には多く見られるのも特徴です。
ガラッと雰囲気を変えて、遊郭の写真です。
京都の「角屋(すみや)」という遊郭で、今でこそ営業はしておりませんが、文化財として保存されております。日本の三大遊郭のひとつとして数えられた、京都の島原の中に位置し、今でもこの界隈はかつての面影をとどめる雰囲気が残っています。
建物の中にはたくさんの部屋がありますが、これはその代表とされる部屋で”青貝の間”といいます。
墨色の壁に螺鈿で模様がつけられているんですね。
やはり遊郭は夜が主役。この螺鈿に燭台の明かりがあたったところを想像するだけでも、ゾクゾクします。炎の揺らめきに合わせて、まさにその螺鈿は光り輝いたことでしょう。こういった光の楽しみ方もあったんですね。
明るさになれてしまった現代の目からは、想像もつかない発想といっていいでしょう。
遊郭なんか許せない!という気持ちと、ちょっと覗いてみたいなあ、と思う気持ちと複雑ですよね。でも、そこでの光景は、さぞや美しかったんだろうと想像を逞しくします。
次回もこの続き、ー室礼の中の道具 2.ーです。お楽しみに!
(かりの)