山口邸竣工(2) 玄関~和室

南から入る玄関が欲しい、奥さまの要望から決まった。
格子戸から射し込む光は、一日を通して明るい。
寝室前のデッキに面して西窓も開けられ、明るさももちろんだが、夜分帰る家族の気配も寝室から感じられる。
格子戸を入った正面に、和室の書院窓が飛び込む。
欄間障子の引き違いに、丸い下地窓をあしらった。
「どこかに丸窓が欲しい」、という当初の山口さんの要望に応えてのこと。
側壁には収納を取り、コートと下足、傘など多岐な収納に応え、扉の内側には姿見鏡も隠されている。

画像

玄関は、空間を広く確保することに努めて片流れの軒裏を表し、框上には櫛形に欄間を開けた。萩を詰め張りにし、丸窓との意匠を整えた。
書院の下地も、櫛形の萩も、若い大工の村林君が編んでくれた。
何でも自分で手掛けてみたい、そんな意気込みが伝わってくる。
向かって板戸側が中廊下に面し、キッチンと繋がる。奥さまの動線である。
客はこの上がり框から迎えられ、書院を左に見て和室へと導かれる。
廊下は矩折れに曲がり、南庭へと繋がる。一日を通して光が注がれる場所だ。
大きなガラス戸を通し、庭の緑が室内まで引き入れられる。

画像

和室は10畳、7尺の床に床脇が沿う。
部屋の広さは、時々に行われる法事や、町内の会合などに使うことも合わせて決められた。しかし常時広い部屋がいるわけではない。廊下を矩折れに設けたのも、座の伸縮が可能なように、との意図もあった。廊下境の腰障子を取れば15畳の広さになる。
また床脇の障子だが、実は中が仏壇となっており先祖の遺影を祀る。代々の家を一新するにあたり、山口さんから
「きちんと仏壇を祀りたい」、との意を受けて提案した。
この障子を開ければ仏間にもなる、と信心深い山口さんのお人柄に応えた。
通常は閉じることで客間として、またリビング境の襖を引き込めば大きくひと繋がりの部屋として使える。こうした伸縮可能な間取りが、日本建築の特徴だろう。
このプランを見たとき、奥さまが、
「遊んでいる和室にならないわね」
と言ったのが印象に残る。

画像

外観が後になった。
道路に面して駐車スペースを広く取っている。車4台分、将来の子供のことを考えた山口さんからの要望だった。この全面道路は道幅の割に交通量が多い。
そのため、家を極力道路から離したい、という意図とも合致した。
道路に近い部分には窓を設けず、壁も厚くなるよう防音などに配慮している。
セットバックした外観も手伝って屋根は平入りとし、寝室の屋根もそれに繋げた。
伊勢は妻入りといって、屋根の三角を道路に向けて作る外観に特徴があるが、配置上、道路に直に面しないため、敢えて平入りとして提案した。
道路に向かって大きく吹下ろされる屋根は思ったより勢いがあり、外観に特徴を与える。また玄関は、それと逆らうよう南へ屋根を流すことで位置を明確にし、外観に動きを与えたように思う。

画像

屋根には仄かに起り(むくり)をつけている。
ふっくらと盛り上がる屋根の曲線のことをいう。
この起りは巧くつけると、とても優しい感じに仕上がる。図面で指示していなかったこともあって現場を混乱させたが、いい感じに仕上がったように思っている。
  (前田)