新五十鈴茶屋計画(9) <職人の仕事>

五十鈴茶屋のもうひとつのテーマが「野遊び」である。
簡単にいえば、ピクニックのすすめ、といえようか。
「提げ重」といって江戸時代以降、外で遊ぶための弁当箱などにも日本人は趣向を凝らしたものを残している。粋な遊びをしたものである。

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五十鈴茶屋の2階が、それらを紹介するギャラリーとなっている。
笑われる遊びをしていては大人ではない、これが大人の世界だ。
楽しさにゾクゾクする。本気で遊んでいる。
ギャラリーの建具に、これら提げ重を想って”瓢箪”の意匠を入れてみた。
5連の建具いっぱいに、横長の瓢をあしらった。
首の紐を黒柿で象眼(ぞうがん)し、瓢の部分に障子を入れる。
図面は先に出来た。
しかしやってくれる人が見つからない。暫し時が経った。
いよいよ切羽詰まって、福岡のS邸で仕事をしている宮本さんにダメもとで尋ねてみた。心当たりがあるいう。早速、出入りの建具職を通じて、福岡大川の職人を紹介してもらった。
それが、指物師 野中貞夫さんである。
見るからに頑固親父の風貌そのままに、すぐにはうんと言わない。
暫し睨み合いの後、仕事場に案内するという。
黙って後ろをついていったが、それは見事な仕事場だった。
チリひとつ堕ちていない。材料は切れ端まできちんと棚に区分けして並べてある。
一見して、凄い仕事をする人だと悟った。

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感じたまま、思うままを伝えた。
その後、材料の保管状態、木材産地を自ら歩いて検分する材料収集、いつどんな仕事が来ても臨戦態勢をとれる職人としての心構え。そんな話から、これまで手掛けられた仕事へと話が移り、やっと打ち解けて快く引き受けてくれた。
それからは度々電話で、設計意図を細かに尋ねて頂き、仕事に反映してくれた。
建具というと、建築から見ると小さな存在と思われる人もいるかも知れない。
しかし、それは違う。建具こそまさに建築を飾る衣装であり、人の目に近い最も大切な意匠のひとつなのだ。
その細かなディテールには、建築を左右しかねない迫力が宿る。
この一本の建具を作るにあたっても、それらを承知の上で、責任持った仕事をしてくれているのが伝わってくる。障子の組子も、二人で話して両面にした。
板は秋田杉。造形として大人になれたかは見る人に委ねたい。
細部まで、思いそのままに作ってくれた。
信念の仕事師である。
  (前田)