紙の継ぎ目

やっと完成が見えてきた、茶の湯サロン。
現場の葛藤7ヶ月、携わった全ての手が、実を結ぼうとしている。
S君は早くも開店のことで、頭がいっぱいのよう。
いよいよ夢の舞台が出来上がる。

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樋口さんは最後に、つくばい脇の手摺仕事に入った。
腰掛けとつくばいとの結界である。限られた空間の中に序列を与えることで、全体を整えていく。比地黒さんのつくばいも、これで活きてくるだろう。
S君のお母さんは、つくばいの台石に苔を敷いた。
「これ、おかしいですか」
笑顔で話しかけられる姿に、家族のみなが愛情を注いでいると伝わってくる。
こうした瞬間はとても快い。
家族にとっても、今度の工事は一大事だったことだろう。
午後から経師屋さんが来る。
ひと通り腰貼りの確認と、ふすまなど細々した仕事の詰めをする。
持ち帰りの仕事で職人は早々に退散、これ以上、今日の現場は動かない。
昼下がり、みんなでお茶を飲みながらも、やはり仕事の話になる。
そのとき、経師屋さんから思わぬ質問が出た。
「紙を継ぐときは、障子の桟の真ん中で継ぐんですか」
茶碗を両手で包みながら、真剣な表情で聞かれた。
気付かない人も多いだろう。しかしこういう中にこそ、真実があると思う。
紙の寸法には、定まりがあった。9寸×尺4寸、これを継いで1枚の紙にする。
従って障子には、自ずからそれら紙の継ぎ目が現れる。これを「石垣貼り」、「千鳥貼り」などと呼んで、今でも好んで用いる場合がある。当然、現在では大判の紙なども自在に漉ける。しかし1枚の紙では得られない表情に、不思議と人の手を感じるのだ。暖かさ、といったらいいのかも知れない。
ここでも、そうしてもらった。
横4間の障子では、全幅を5つ割にして2つをひとつに横2枚半、半端を端にもってくる。すると、障子桟の真ん中に継ぎ目がくることはない。そのようなやり方も知っていた。
しかしこの問いに、そういう答えをしてはいけないと思った。

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   障子が自然に見える継ぎ方をして下さい、中心にはものを決め込ん
   でしまう力強さがあります、強さは主張に繋がりかねません、そうし
   たことを避け、総じて目に立たぬことを主眼として、貼ってみて下さい。
監理は寸法で指示する場合がほとんどだが、気持ちに投げかけることもある。
この繊細な気遣いを見せる職人なら、きっと自分の答えを見つけるに違いない。
そこから生まれる形こそ、本来の「美意識」と呼ばれるものだと思う。
人が希求する美しさへの意識が、姿となり形となる。
美しさは決して、マニュアル的技巧から生まれるものではないのだ。
悩みながら帰っていった。
かかわる皆が悩みながら形を模索する中で、初めて浮かび上がるものがある。
滲み出るものがある。
そう信じて疑わない。
  (前田)