新五十鈴茶屋計画について(5) <赤福・茶屋>

西側外観を望む。
左に赤福、それに続く形で茶屋が繋がる。
茶屋との間には抜けが作られ、中庭へと結ばれている。
その通り土間に接した正面に、へっついが座る。おはらい町通りから、また車で走る県道からは、まずこの外観が飛び込んでくる。

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平入りの屋根が連なる。
軒高を抑えつつ、中庭への通り土間上部を落屋根として両棟を繋ぎ、茶屋を前にせり出し雁行させている。かねてからこの地に育つ桜も計画に反映させた。
餅屋の太格子と上階の繊細な3連出格子、外部にきざみ囲いを張った赤福棟。
それに対し、茶屋は土壁の虫籠窓と下階の大きな出格子が外観を構成する。
赤のへっついは、何より赤福の象徴である。本店より格を落として、ひと回り小さく作った。
以前に途中経過とともに書いた”へっつい”である。近くに住む、左官の尾崎さんが作った。本店のものも、彼の手によるものである。
ついこの間まで、父上と一緒に仕事をされていた。
へっついは釜に対する火の加減と、煙道へ抜ける熱の加減が最も難しく、いつも傍らで立つ父上の厳しい視線を浴び、臨機に調整をしながら作っていた。
尾崎さんには、私の仕事だけでも何軒かへっついを作ってもらった。
今は自身で指揮を執る。

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石積みの後、耐火煉瓦を積んで芯を作り、その上に土を塗って形を整えていく。
充分乾燥させてから、上塗りの漆喰へと仕事は進む。
五十鈴茶屋では左官の自発的な行動で、全国各地の気持ちを秘めた左官が結集して壁を拵えてくれた。それらの職人衆が、この現場最後の仕事として、この”へっつい”に協力していた。
最終工程が「磨き」と呼ばれるもので、磨きコテをへっついの丸みにしならせながら、全体を磨き上げてゆく。まさに意気を込める瞬間だ。
見事なへっついができた。

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茶屋には、軒先の巴瓦に「土瓶と茶碗」を交互に配した。
五十鈴茶屋デザイン部の、堀井清史さんの筆致による。
梶川さんの鬼瓦と共に、楽しんで欲しい。
また緑青の看板灯は、私の書く意匠を、岐阜の職人が形作ってくれた。
  (前田)