新五十鈴茶屋計画について(3) <主旨2>

それでは、全体の配置の概略を述べよう。
敷地は33m×70mのほぼ長方形。南側に志摩へ繋がる県道が走り、東に面しては五十鈴川を望む。
北側が市営駐車場で、続く西側は、おはらい町への街路になっている。
従って敷地北西角は、徒歩でおはらい町をめざす外来者の通過経路となる。
そのようなことから、この角をひとつの導入路と考えた。

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赤福と五十鈴茶屋の両菓子屋が入口を囲み、来る人を中庭へと誘う。
敷地の中で、唯一外部に開かれた空間でもある。
そのまま西側に回り込むと、赤福と隣り合って茶屋の店構えが並ぶ。茶葉を商う店である。
おはらい町から来る人にとっては、この街路に面した外観が最初に目に入ることから、ここにも中庭への導入路として抜けを設え、視線を奥へと誘っている。

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伊勢はその昔、日本中からの参拝者に対し「施行(せぎょう)」といって、この町に住む住民が快く沿道接待をしたという。参宮者にとって何よりの存在であった。茶屋に接続した小上がりはまさにそれで、もっぱら旅人への休憩場所となる。
井戸端の水は心ゆくまま、中庭南側に連なって、野遊び物販、4つの竈(かまど)を備えるだいどころ、それに続いて五十鈴川に面した”めしや”が展開する。
川側に面しては大きく濡縁を張り出し、外の気配を建物近くまで引き寄せる。

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上階は喫茶どころとなり、東に連なる山並みと、五十鈴川の川面が大きく望める。この景色を思う存分取り込みたいと、初めからこの場所と決めていた。近距離であるにも拘わらず、おはらい町から望む東山の景色とは、また違った様相を呈するのが面白い。
この棟に、時計台を置いた。
県道を走る車からもアイストップとなる、象徴的要素と考えた。
五十鈴川へと結ぶ動線として橋を架ける。さまざまな形で周辺と繋げたい。
堤防からは川へ降りることができ、川伝いに内宮までも歩くことができる。

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この棟に直行する形で、市営駐車場に面して五十鈴茶屋が構える。
北側に向けては、東西間口11間からなる町屋老舗の構えである。
一転、中庭に面しては川への段差を活かしながらの独特な外観を構成する。
施設の中核をなす建物であることから、中庭に南面させた配置計画を施した。
  (前田)