奥さまご希望のアンティークの照明が、捜せど捜せど見つかりません。
かなり早い段階から、好みの形は見せて頂いてました。いたってシンプルで、「かつ、見たことがある」というようなものなので、知人に名古屋から岐阜までの骨董屋を捜してもらったのですが、お気に召しません。
肌電球にガラスのシェード、といった単純なものですが、このアンティークのガラスのシェードが今、結構人気があるらしいのです。
捜す中に私も欲しいものがあり、そっと取り置きしてもらいましたが、結局S邸の四帖半に手放すことになりました。普通に購入しようとすると値段も結構馬鹿にならないものです。
キッチン・水回り・設備機器を決め、各所の色が決定すれば、残りは照明となります。あらかじめ実施設計にあたって選んだ器具をもとに、再度ご夫妻で検討してもらいました。
メーカーの分厚いカタログもお渡ししましたが、「これだけあると分からないわ」と、奥様。これでもかと思うばかりに器具の写真を並べられては、目移りしても仕方がありません。
迷って当然です。
照明計画では特に変わったことはしませんでしたが、、リビングの吹抜は上からの照明をやめ、間接光で天井面を照らすこととしました。
山口さんには見慣れない照明かも知れません。
思えば私たちは上から(天井から)の照明に慣れきってしまいました。
以前、西欧を巡って驚いたのは、壁面ブラケットやスタンドを使って、実に魅力ある夜景を演出していたことです。
日本だって上からの照明なんて最近のことです。
隅々まで照らす明るさを追及した、蛍光灯の普及以来でしょう。
かつて日本には、家の中の至る所に暗闇がありました。
闇の中にはいろいろなモノが潜み、あらゆる音が隠れていました。
私たちはその闇の中身を想像し、そこから生まれた情緒ある文化も日本にはたくさんあります。
最初から蛍光灯のような明るい光に照らし出され、家の中にひとつも暗闇がなかったら、日本に永々と伝わる文化は随分と味気ないものになっていたでしょう。
ご夫妻も明るさへ多少の不安はあったようですが、「これで行こう」と決断されました。
そもそもリビングは開放感のある空間ですが、夜はまた違った奥行きを演出してくれるのではないかと期待しています。
照明を考える時、いつもこんなことを思います。
朝、出掛ける人は家を背にするため家を見ることはありません。
しかし帰りは家の灯りを頼りに帰宅します。
そんな時、暖かく家族を迎える”灯り”が、家を包んでいて欲しいのです。
明るさという機能も大切ですが、空間に豊かさを与えたり、心安らげる灯りとしての照明を考えることも大切なことだと思います。
(かりの)