理想を形に

「う~~~ん」
どうも奥様の雲行きが怪しいのです。
今日は、色決めで集まった打ち合わせなのですが、トイレと洗面で止まってしまいました。
どちらもバスコート(坪庭)に面していますが、設計の高さの窓ではトイレが隣家から丸見えなのです。
窓を通常のように型ガラスにすれば問題はないのですが、それでは折角の中庭の緑が台無しです。
実は、「トイレへのこだわり」が奥様にはあったのです。
居住性を求められていらっしゃるのだと思いますが、
よそのお宅に行ってトイレが素敵だと、なんだかそこの奥様の株も上がるような気が私はします。
普通のガサガサなトイレットペーパーより、バラの模様の入っているものなんかが使われていたりするだけでも、「トイレットペーパーなのに・・・・・ハイソだな」という、あの感覚です。
山口さんの奥様は、まずは「アンティークの照明」でした。
しかも、「素朴なもの」というのが設計の頃からのご希望でした。
しかし、すぐには見つかりません。
「手洗器は陶器のものを1・2階ともつけたい」
これも、ご家族で信楽まで行って探してこられた一品をつけることにしました。
最初から和風を強調されてたのです。
それから洗面でこだわったのが、洗面ボールの大きさです。
奥様の希望は、730×530というもの。
今の仮住まいの洗面化粧台の寸法なのだそうですが、「これ、使い勝手がいいわっ」と。
また、脇に椅子が収納でき、身だしなみも整えるように、とのご希望です。
最初からそれとなく奥様は言ってらっしゃいました。
聞き漏らしていたわけではありませんが、いよいよ焦点が定まってきたのでしょう。
色決めを脇に置いて、みんなでプランをいじりだしました。
その日はなんとか打開策を出して別れましたが、次の日、ご主人から
「妻が納得していない」と、聞かされました。
打ち合わせの後、山口さんと呑んで別れたのですが、奥様は夜遅くまで図面を広げ、ご主人の帰りを待っていたというのです。
そこで書いたのがこの図面です。

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幸いトイレは幅が4.5尺とってあったので、向きを横にしました。そうすることで窓を低い位置に設けられ、透明ガラスでも覗かれることなく坪庭の緑が目に入ります。
脇のカウンターに陶器の手洗を仕込み、前を鏡の扉として収納もとれるようにしました。

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洗面は脱衣スペースと完全に分けることで効率的なスペースを確保するという奥様の希望を取り入れました。(というよりも、この近辺のスペースは全部奥様の希望通りなのですが)
この大きさの洗面器はさすがになく、洗面化粧台の器具を外して取りつけてもらうことにしました。

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非常にこだわっております(笑)
早速ご主人から、「妻がとっても喜んでいました」と・・・・・
私も胸を撫で下ろしました。
しかし、このようなことはそう大したことではありません。
自分の家を作るのですから当たり前なことなんです。
昨今の住宅メーカーでは、工事に掛かったら引き渡しまで「現場を覗いてもらっては困る」と、契約に記載されているような話も聞きます。    
とんでもない話です。
誰が建てるのですか?
誰が住むのですか?
誰が経費を払うのですか?
迷いながらも自分の理想の住まいを、関わるみんなの力で作り上げていく。
それが家を作るということであり、
迷う中から初めて、理想の形が生まれるのかも知れません。
私にとってはその醍醐味を楽しむ仕事だと思っています。
(かりの)