棟 梁(2)

新五十鈴茶屋の続きを。
敷地東側、五十鈴川に面して建つ喫茶棟、この棟を受け持ったのが池正建設の堤棟梁だ。
一見取っつきにくい寡黙な人だが、素晴らしい仕事をする。

画像

工事当初、担当の監督が私との仲介役をしていたが、病で途中離脱したため、肝心な刻み仕事で意志の疎通を欠いたことがあった。私も最初から妥協するつもりもなく、数本の材料と若干の仕口絡みの仕事をやり直して貰うことになった。内心怯えながらも、それを伝えに加工場に伺ったのだが、嫌な顔を見せるどころか自らの責任と受け取られた姿勢に、頭が下がる思いをした。
それからだろう、次第に話を交わすようになった。
この棟は壁らしい壁がなく、均等に配した軸部の木組みで持たせる構造になっている。桁行き11間、梁間5間に付属屋が取り付き、内部はほとんど一室状態となる。途中、間仕切壁があれば適度に逃げを作りながら吸収できるのだが、これだけ長いスパンを組み合わせて帳尻を合わせるのは、並大抵ではない。大きな曲率の丸太を組みながらも、少しも隙間なく納めてくれた。

画像

川側のテラス席は、まさに五十鈴川を望む圧巻の場所。
宙に浮かぶよう軽々と意図した丸太仕事も、見事なひかりつけで合わせてくれた。
彼曰く、「壁はないが、屋根にのぼってもビクリともせん」、とのこと。
「ここで一生分の頭を使うてもうた」と、今朝の挨拶がてら笑顔で話しかけられた。
今回、おかげの里、最大のテーマは季節と和菓子。
五十鈴茶屋が暖簾20年を経て、気を新たに、この土地の季節と共に繰り広げられる和菓子の世界を展開する試みとして目論まれた。
その中核を占めるのが五十鈴茶屋棟。
市営駐車場沿いに建つ、間口11間の堂々たる老舗の構えである。

画像

この棟を受け持ったのが、鵜倉建設の西村棟梁である。
まだ若い彼は30代の精鋭、きびきびとした動きと大きな挨拶は若さの証だ。
”色々教えて下さい”と最初から一貫した姿勢は純粋で、仕事も美しい。

画像

この棟も、特に1階は柱と胴差の木組みが勝負。5~7寸の柱に1.5~1.8尺の胴差が縦横に刺し組まれる。その継手や仕口は見事なものだ。
細部に至る仕事の納めはまだ老練というわけには行かないが、対話をしながら少しづつ作り上げてくれている。
目の輝きの美しい好青年、今後を嘱望される棟梁となるだろう。
 (前田)