『茶の湯サロン S邸』 紹介にあたって、まずは計画について述べよう。
S君。彼も今では結婚し3人の元気な子供の父親だが、
結婚式での彼の挨拶がふるっていた。
「特定の人が競う茶の湯でなく、多くの人が楽しめる茶の湯をやっていきたい。そこで使われる道具も道具屋の端くれとして、若い人と一緒になって残せるようなものを作っていきたい。そんな大らかな茶の湯をめざしていきたい」
要約するとこのようなことだったと思う。
お茶関係が多勢の京都で、しかも彼の若さでこのようなことを人前でいうことは、
正直無謀といっていい。
しかしその言葉が原動力となって、今回の改装に繋がった。
彼の信念に私も同感した。
設計の依頼があったとき、彼からの条件は
1. 2階に8畳の広間と、出来れば小間の茶室をとりたい
2. 2階は続きの間として展示会が出来るよう、大広間として使いたい
3. 3階に料理教室を設け、懐石料理教室を開きたい
という3点だった。
改装のため、建物の全体寸法を変えることはできない。3階はとにかく、2階がうまく納まらない。鉄骨造のため既存の階段を取るわけにもいかない。広間と小間を襖ひとつで繋げてしまうと、結局片方の部屋しか使えない・・・。
など、既存建物との取り合いの中で、茶室としての使い勝手を満足させるため、プランは些か困難を伴った。
そこで、2階広間の床を既存ベランダに出す形で広げ、広間と小間の間に“鞘の間”(さやのま)を設けた。いわば畳廊下を広げたもので、この鞘の間を挟むことで広間と小間がそれぞれ独立した働きが持てるように、と配慮してのことであった。
どちらが本席になっても、片方を寄付などに充てることもでき、稽古などでは広間と小間を同時に使うことができるよう目論んでいる。
茶室については、大勢の人が集うサロンとしての意味合いから特定の流儀に片寄らず、誰もが平易に使える形を求めた。
そのため小間は茶室の基本形である四畳半とし、利休四畳半に範をもとめた。
八畳の広間は間口中央に一間床を設け、脇に琵琶台を備える形をとった。
【四畳半小間 床を見る】
広間・小間とも鞘の間とは建具で仕切っている。これを取り払うことで全体がひと部屋となる。
展示会はもちろん、大寄せのときなどは、四畳半を正床として20人程が一同に座ることもできる。
伸縮自在が日本建築の大きな特色だろう。
【八畳広間 床を見る】
両茶室とのつながり、下階との連携を満足させる位置に水屋を設けた。
補足だが、2階の茶室を使っていると、3階との動線が途切れるため、ダムウェーターを取付けて上下階を結んでいる。茶事の折などの懐石に役立つことを望んだ。
(前田)