設計士の日常

山口邸、記事の更新です。
7月末に基本設計が完了した山口邸。 いよいよ実施設計に取り掛かります。
と、その前に、皆さまは設計士の仕事というものがどういうものか、今ひとつピンと来ないかと思います。
そこで、今回はちょっと設計士の仕事を前田さん(所長)をもとに、私の観点で紹介しようと思います。
まず、設計の仕事は大まかに3つに分けることができます。
  ・ 基本設計・・・施主との話し合いを通じて基本となる設計をする。
            山口邸で、ここまで紹介しました。
  ・ 実施設計・・・工事を行うにあたって必要となる寸法を
            精密に組み立て、詳細な設計を行う。
            設計図を作る作業ですね。
  ・ 現場監理・・・実施設計図書に基づいて工事関係者に設計
            意図を伝え、施主の気持ちに添う建築を作る。
ここで更に、私から見た前田さんの設計に対する姿勢を述べてみたいと思います。
基本設計の段階。これは、こちらのブログで実際にどのように進められていくのかを紹介しましたので、そちらをご覧になってください。
次に、実施設計。
基本設計をもとに、どこまでお施主さんの希望通りの建物が出来上がるかがここで決まります。
この段階に入りますと、設計室にはいつも以上のピリピリとした空気が流れます。
実施設計、まさにこの時、建物が理想の形になるかどうかの臨界点を迎えるのです。
他の設計士の方はどうか分かりませんが、前田さんの場合、この時点で全く別の世界に行ってしまってます。
つまり、どの部分の細かな寸法も、建物全体のヴィジョンも完全に頭の中で構築していくため、周囲との接触を絶ち、ひたすら図面を書き進めていきます。”全てを納め尽くす”その心意気がビリビリ伝わってきます。
全く自分の世界・・・周囲の声も音も聞こえないかのごとくです。
大声で自問自答を繰り返し、何か「声を掛けられたのか?」と思い、話しかけると叱りとばされます。電話も取り上げてくれません(聞こえてませんから)。
私では応えられない重要な電話まで、こちらに転送されてきます。
私は電話主と前田さんの板挟みです。

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実は前田さんの設計図は未だに全てが手書きです。
CADではありません。
クリック一つで線が書けたり、消せたりできるような図面ではないのです。
昔ながらの、図面を見ればその人柄を垣間見ることができる代物です。
ですから返って、その線1本を引くのに全神経を集中させなくてはなりません。
実施設計は前田さんにとって身を削る作業なのです。(実際の身は一向に削られてませんが)
そして、現場監理。
図面が理想通りに書けても、実際にそれを形にしてもらうのは現場の職人さんたちです。
職人にその意図が正確に伝わらなければ、図面通りの建築ができるはずもありません。
ですので、前田さんは現場の職人さんたちをとても大切にしています。
が、その反面、自分の意図するところを理解してもらうまでに、何度も喧嘩まがいの事態まで引き起こします。
ここでお互いが理解し合う潤滑油として前田さんがよくつかう手段が、「酒の席」です。
私の思うところ、「酒の強い奴には逆らえない・・・」という暗黙のルールみたいなものが建築業界にはあるようですね。
しかし、設計士VS職人衆。一人対数人。
並大抵のことではすまされません。
ここで前田さんの数々の伝説を語ると話が長くなりますので割愛しますが、見事に討ち死にしてきたことも多々あります。
ですが、気持ちよくお互いに飲み食いができるようになった段階で、この戦いにも終息が見え始めるのです。
前田さんにとっての現場監理とは、『完全に理解し合うための喧嘩上等!』の戦場なのです。
現場の方や職人さん方から掛かる電話を取り次ぐ時、その声の調子で前田さんとの関係がわかります。
「あ~、まだうまく関係を築けてないな」とか、「今、すごくノッてるな」とか・・・・。
しかし、そうやって関係を築いていった方々とは、今でもよい関係を続けさせていただいています。
                 (かりの)