滝口の前から建物を望む。庭の中心となるこの場所に立つと、建物の全貌が望まれる。建物を雁行させながら、それぞれの棟を屋根で形づくり、軒の高さを抑えて低く穏やかに連続させる。屋根の造形は大切で、棟ごとに細やかな主張を持たせながら、連なりでリズムを奏でる。建物を雁行させて動きを生み、躍動する造形が織りなす美しさを求めた。
<滝口前から建物全貌を望む>
滝口を過ぎ、苑路を歩く先に西の玄関がある。左手は、大きな紅葉を密植して紅葉山と名付けた。苑路を歩く視点で見ると、この辺りが庭全体の背景として映ることから、あえて紅葉を中心とした彩り溢れる一境をと目論んだ。苑路は砂土を混ぜて打ち、舗装の角を面取りして芝生や砂利と馴染ませている。目に立つ仕事ではないが、こうした細かなディテールが庭づくりにも重要で、繊細な心配りを重ねて情緒は育まれる。
<紅葉山の前から西玄関を望む>
苑路を紅葉が覆い、春には鮮やかな新緑が、秋には真っ赤な紅葉が覆いつくす。右手は砂利敷き、左手は芝生から幹を立ち上げ、足元を整然とさせて力強さを強調した。まだ植えて間もないが、近いうち紅葉のトンネルとなって、西玄関へのアプローチを彩るだろう。
<苑路と紅葉山>
ここが西の玄関となる。若い家族が出入りすることから、正面玄関の純粋な和風とは一変させて現代的に纏めた。滝口から歩く苑路のアイストップには、老練な枝ぶりの松を入れた。玄関ポーチを広く取り、子供室前を目隠しするよう塀で囲いながら意匠を整えている。玄関前には方形の鉄平石を敷き詰めて、膨らみもたせた芝庭と接させ、サツキの玉ものを点在させて視線を透かし、ゆとりある明るいアプローチを目指した。
<西玄関を見る>
玄関に添えた松を入れるのには苦労した。現場隣の土場から木々を運び入れるルートにあたり、南庭から玄関庭、紅葉山の木々を運んで植込み、最後にこの松を入れた。土場からの搬入路はここしかなく、最後の止め木となって回すこともままならず、木の向きや高さをここと決めて、一気に落とし込んだ。この松が入って、庭の構想もなったかと、肩の荷を下ろしたことを思い出した。
<アプローチから西玄関を見る>
<つづく>
(前田)