短期間で材料を集めねばならないとあって、すぐに手配に走った。
業者決定が10月半ばだったため、樹木の伐採時期と重なったのは幸いだった。
庫裏と書院だけでも140坪超の面積があり、大量の木材が求められた。
<大径木から木取るところ>
今回の計画にあたり、和尚からどうしても木造でという気持ちを聞かされていた。本堂と山門を復興されたのが前住で、当時でも建築基準法上難しいところを、法規を満たしつつ木造で建てた経緯がある。加えて和尚自身が京都で育ったこともあり、建て替えるなら木造で、という信念を強く持たれていた。
準防火地域に建つ木造は制約が大きく、また既存の本堂との取り合いもあって法規制はとても厳しい。その問題点を逐一解決して計画に反映させてきた。
いまの時代、そうした法規制や資材調達の困難さ、手間が掛かることによるコストの上昇などで木造が敬遠されがちだが、この木場という土地柄にあって、何としても木造建築を復権させたいという和尚の気持ちに、拘わる全員が賛同して取り組めたことは大きかった。
<製材を行う>
木材は、全て青森県の南部地方で揃えた。
杉を主にして、赤松、欅、栗、ヒバを要所要所に用い、全体の品格を損なわないようにと設計段階から図示していた。青森産の特徴は、何といっても樹種が豊富なことに尽きる。植林技術の発達もあって、他県だと単一樹種しか揃わないところが多いが、ここはうってかわり、多くの樹種に恵まれながらも大径木が豊富に現存する。
ただ難点は、山をもつ人がその資源を理解せず、山単位で製紙工場に売ってしまうという現状がある。優れた木材ながらも、パルプ材となれば2mほどのチップに切断されてしまう。これではいけないと、20年ほど前から山に入って材料を見てきた。
<材料検査時の梁材の説明>
大量の木材が必要なことから、大径木を挽き割って材料調達に充てるとともに、色味を揃えて整えたいと思った。木材集めにはいつも縁を感じるが、今回も杉で120年を超える丸太を揃えることができ、赤松も100年前後を数十本と集められたのは幸いだった。
発注からわずか3ヶ月で、かなりの大径木を確保でき、荒取りをしたあと半乾程度に人工乾燥を掛けて、1月末には材料検査まで辿り着いた。
材料検査には、和尚をはじめ、前住の建長寺の老師もお越しになり、ひとつひとつの材料を丁寧に見て貰った。梁に使う曲がり材や柱などの柾目具合、丸太の素性などの説明にも熱心に耳を傾けていただいた。材料の価値が分かる方々だけに、我らも真剣勝負で望んだ。
<長押材を見る>
それでも暴れる木もあり、再度の調達に走ったりと苦労は絶えなかったが、総じて素性の良い木でまとめることができたのは天恵だった。
丸太を挽いたとき、中から見事な杢理が現れたときの喜びはない。
今を生きる人間よりも、長くこの世に生を受けた生きた木を使って建築を作らせていただく。その責任の重さを受け止めて、我らは建築を作るのだということを、改めて思い知らされた。
(前田)