第48回 中部建築賞受賞

年の瀬も近づき、日ごとに慌ただしさが募ってきた。
今年は少し早く、昨日で伊勢事務所を締め、埼玉へと戻ってきた。
ただ年内の仕事もまだ山積しており、東北出張の傍ら、ぎりぎりまで仕事漬けとなりそうだ。

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               <建物全景 茶畑越しに見る>
伊勢、宮川の里「鄙茅」がこのたび、第48回中部建築賞を受賞した。
現地審査には審査員長の栗生 明先生、自らがお越しになってくれた。雨が降りしきる中、案内の私がつく小1時間ほど前に来ていて、川沿いの風景を見ながら座っておられたのには、さすがに驚いた。
栗生先生による講評を下記に記す。
授賞式のおりの総評でも「これが風景を作る仕事です」といわれ、我が意を得て感激した。建築については、すでに小欄でも紹介しているので、詳しくはそちらを参照して欲しい。
歳末に来て、嬉しいプレゼントを頂いた気持ちで、充実感を感じている。
  (前田)

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            <授賞式後のパーティーで栗生先生と>
審査講評
 伊勢の清流、宮川沿いに建つ懐石・会席料理の店である。
車でアプローチすると、広々とした田園風景を前景に、大きな茅葺き屋根が忽然と現れる。なだらかな山々の稜線と調和した、ふっくらとした茅葺屋根の佇まいは、日本の「里の原風景」そのものである。懐の深い茅葺き屋根の内部に一歩足を踏み込み、前面に広がる景色が目に飛び込んできた時、息を呑んだ。
 「絶景」とはこういう景色をいうのだろう。S字形に蛇行した川の流れは、右手の上流から前面の山裾の手前を巡って、左手の下流へと、奥行きをもって一望できるのだ。濃淡の灰色で折り重なる山々の稜線。神宮の「お白石持ち行事」に使われるという白石に埋め尽くされた川岸。流れの中に屹立する黒々とした岩礁。降りしきる雨の中で、川面に霧が立ち、一幅の水墨画を見ているようで時間を忘れる。
 オーナーの40年にわたる念願と、建築家の執念が「この地、この場所でしか成り立ち得ない風景」を創造した。周辺の田園や茶畑を残すために広大な敷地を手に入れ、見晴らしのために前面の樹林を伐採し、視点の高さ調整のために土を盛り、インフラを整備するのに、膨大な時間と手間と費用をかけた。1階、中2階客席のどこからでも絶景を享受できる最適な配置と、空間演出を計算してのことである。
 大きな小屋裏空間の中で、スキップフロアーを採用することで、効率的に空間を積み上げている。この際、前面の茅葺きの庇部分を大胆に切り取ることで、中2階においても風景を見事に取り込む一方で、小屋裏を自然光により明るく見せている建築的アイデアも見逃せない。大きな茅葺屋根を支える、梁組みの曲がった木の調達、小屋組の構造的工夫、仕口継手、チョウナを使った仕上げなど、古より伝わる木造建築の技術や工夫が随所に見られる。
 日本の伝統技術継承のシンボルともいえる伊勢の地に相応しい建築といっていいだろう。
   (栗生 明)