冬から春へと移るこのときは、まるで激流のごとく変わる。
土を覆う草も山も、空気の色までが昨日と違い、湿った柔らかさに包まれる。
気付けば、梅に続いて木蓮も咲き出し、桜も幾分つぼみが膨らんだようだ。
<前面道路より外観を望む>
以前紹介した、和歌山の串本に建つ町家が、先日地鎮祭を迎えた。
図面が仕上がって一年近く、これまでの紆余曲折を乗り越え、漸く着工に漕ぎ着けた。施主の感慨や、いかばかりかと察する。今年中の竣工を目指す。
相談を戴いたのが2年前で、駅前正面という好立地に和菓子店を建てたいという。長い間、伊勢の建築を見ていただいた上での依頼だった。
最初にお目に掛かったときから、ご尊父から受け継いだ和菓子職人としての生きざまを、この新たな店に掛けるといった意気込みが感じられた。現在も駅近くで商売をされているが、このたびの新店と同時に屋号も改め、新天地を目指す覚悟は堅い。
<みせの胴差材>
周囲の塀までも妥協を許さない、施主の姿勢は一貫していて、良い建築をと常に望まれる姿が、いつもまぶしく映っていた。打ち合わせも順調に進み、それをもとに実施設計を書き上げた。
地元はもちろん、遠方の数社にも見積もり依頼をしたものの、思うような回答が得られない。当初見込んだ私の概算が甘かったせいか、開きがありすぎて話にならなかった。串本という地域の特異性もあって、どうしても高くなるコストに何とか折り合いをつけ、漸く工務店が決まったのが歳末ぎりぎりだった。
周囲から3方を見通せる建築だけに、全体の佇まいには意を払った。中庭を挟んでみせと厨房の棟が分かれ、アプローチ空間が両棟を繋ぐ。
地鎮祭後に、下請けの顔合わせが行われたが、みな気持ちの入っている顔ばかりだった。集め出した材料も見せて貰ったが、これも申し分ない良材が揃いつつある。林業の町でもあり、地に育つ木々を使って作られるこの建築は幸いである。
工事はこれからだが、追って紹介していきたい。
(前田)