既にある庭は、建物の周りを回遊するよう作られていた。
しかも各場所ごとに景色が作られ、細やかな配慮が感じられる。
恐らく、こうなるのではないかといった庭師の勘が、出来る建築との交わりを望んでいるかに見受けられ、それをどう受け止められるかが建築の課題だった。
<外観>
中でも外観の構成は大きく、回遊する庭から眺める建築は、既にして庭園の一部である。馴染むだけでは早晩飽きが来る。造られた庭に比した建築の主張があって、初めて調和といえるものになるのだろう。
主屋の存在をアプローチからも感じさせ、なおかつ庭園建築として、佇まいをもった外観とするため、南に向けた入母屋に寄棟を添わせた。また池に入れられた伽藍石を生かして濡縁を持たせたいと思い、池に面して和室を配した。
そこを基点に諸室を巡らす一方、建築のボリュームを抑えるために建物を雁行させ、そこから生じる流れるような屋根で特徴を表そうと考えた。
下屋を巡らすことでより効果的に、静かな佇まいの中にも、動きのある姿になったと思う。
<正面外観>
これも、下屋と主屋の間合いが大きいとぬるくなるため、敢えて大工の手間を掛けても、ここは薄く納めた。屋根勾配を慎重に見極め、屋根の稜線が美しく庭に浮かぶよう、軒の出との調和を見ながら形を決めていった。
主屋の入母屋には若干の箕甲をつけて厳つさを消し、破風は自ら原寸を引いて指示した。屋根には起りをつけ、全面銅板で葺き上げている。
滝口の周りはわずかに周囲の地盤より上がっており、ここから眺められる建築を思い描いて作ったのだが、それなりに納まったようだ。特段の意匠を排してバランスだけで勝負したいと思ったが、ひとつ入れた丸窓が、それなりのアクセントになって、却って固さが取れたかも知れない。
<側面芝庭からの外観>
回遊式庭園とあって、それぞれの場所ごとの外観も気が抜けない。
四方正面の建築となったが、庭とうまく融合できたのではないかと思っている。
日本建築における屋根の造形はやはり難しい。
酸性雨への影響から、銅板は0.4ミリを使った。
(つづく)
<中庭から玄関側面>
(前田)