これから年末に掛け、目白押しに実施設計に取り組まねばならない。
相変わらず外に出る機会が多く、腰の具合もはかばかしくないのだが、弱音などいっていられない。
体調を整え、精魂を傾けたい。
<全体の佇まいを見る>
小さな仕事だが、第三銀行の依頼でATMコーナーを作った。
家と家の間にひっそりと佇み、歩いていても、うかと見過ごしかねない場所にある。内宮参道のおはらい町通りに面した一画で、以前、庭となっていたところに、間隙を縫って建てた。建物は6㎡にも満たない。
おはらい町通りは景観地区に指定されており、もちろんその佇まいは、周囲の景観に寄与しなくてはならないが、街路に主張するだけの規模をもたないものを、どのように形作り、利用者に訴えるか、戸惑いもあった。
また、かねてからこの庭には松が植わっていて、これは生かさねばと思った。
幹が道路際までせり出し、ただでさえ間口が狭いところにもってきて、根を踏むと枯れる怖れもある。
<門の周りと看板>
そこで、思い切って奥にブースを建て、道路に沿って門と塀を設けて、小邸宅の構えとした。門を設けることで、アプローチの幅を狭められ、松をいたわると同時に、奥行きをもった空間が生まれる。
また松の枝振りを見ながら、門の位置を決め、見越しの松と見立ててみた。明かりが灯った夕景の風情もなかなかで、夜の防犯から格子戸を立てた。
銀行からは、快く諒解を取り付けたが、サインについては意見が分かれた。
街並みにあわせ、木彫の板看板に、暖簾で色をつけてと思っていたようだが、商店とは異なり、若干の風格が立ち上らないと、この極小空間では存在が埋没しかねないと訴えた。
最終的に私の意見が採り入れられ、このような姿となった。
<門に挙げた看板照明>
塀に真鍮の銘板を取付け、門には看板行灯を挙げた。ブース入口には、ガラスに刷り模様で文字を入れ、建築とともに小さい空間を整えた。
間口4mの狭さに加え、隣家から高さの制約を受ける仕事だったが、些か面白くできたかと思っている。建築、看板、照明とも、すべてデザインさせてもらった。
こうした修景に沿った試みは珍しいようで、新聞テレビでも取り上げられた。
「これがATMだって」
先日も、道行く若い女性がもの珍しそうに、指さし眺めて通った。
余談だが、ここ限定の利用明細書が出るようになっていて、おみくじつきの珍しいものである。是非試してもらいたい。
(前田)
設計監理 前田 伸治
暮らし十職 一級建築士事務所
A T M 日本ATM株式会社
建 築 株式会社 高山建設
電 気 株式会社 三貴
サイン ヤマコー株式会社
事業主 第三銀行 伊勢支店