伊勢市観光協会竣工1.

例年のごとく、盆中も仕事をしていたが、今年は数日休みを取った。
久し振りの気分転換にと、滅多に運転しない車で富士の麓に行った。
仕事を忘れ、森の緑に囲まれて過ごす数日は格別だった。
それも束の間、明日からいつもの出張が続く。

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            <建物正面を望む 裏の緑が外宮>
伊勢市観光協会が竣工した。
去る8月2日が竣工式で、伊勢市長はじめ商工会議所会頭など、各界名士が集う盛大な式典となった。市長の式辞にもあったが、こうした公共機関に日本の伝統的な木造建築が用いられるのは有意義なことで、せめて土地の歴史に関わる施設ぐらい、大いに採用してもらいたいと思う。
木造も見直されてはいるものの、未だ数は少ない。
ここは外宮の森に沿った立地で、車の往来を除けば、概ね静かな環境といえる。
ここが、伊勢の観光行政の拠点となる。
建物は木造2階建て、1階は会所として、多人数の幅広い使い方が可能な空間に、2階に事務所機能を集中させている。
職掌柄、伊勢市民はもとより、他地域からの来勢者も多いため、敢えて伊勢の伝統的な町家をモチーフとした。
この外宮界隈は山田と呼ばれ、内宮周辺の宇治地区とは同じ伊勢でも風土が違う。建物の雰囲気も異なり、戦前の写真を見ると山田は、強いていえば威風堂々新進気鋭といった趣があり、当時の盛大な賑わいが見て取れる。
今では観光の中心もすっかり宇治に奪われ、辺りには古い建物も消えて、往時の面影はない。残念だが、外宮の森だけが、その名残りをとどめているようだ。

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              <建物南側より妻面を望む>
それでも周辺は密集し、準防火地域に指定されている。
そのため、延焼ラインを避けて建物を配置し、間口9間あまりの土地を有効に、堂々とした佇まいに仕上げてみた。
前面道路に向けて大きな妻面を見せ、けらばの箕甲を本瓦に、屋根全体に強めの起りをつけた。南につく大庇が通り土間となって、へっついを置く。
1階は下屋を隣地際まで延ばし、ここにも細めの本瓦を葺いた。2階は事務所のため出格子で整え、ガラス窓を立てた。
外壁の下見板を、こちらでは「きざみ囲い」と呼び、特に妻面上部の三角面を、外壁面より一段外に出して張る。これを「南張り囲い(なんばりがこい)」と呼んで、伊勢の町家特有の外観を作っている。
台風の通り道、伊勢の自然環境が生んだ造形なのだろう。
道に対して妻面を見せるのは、神宮ご正宮の平入りに倣うは畏れ多しとの説がもっぱらだが、こうした妻入りをバランスよく成り立たせるのは、存外に難しい。

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               <屋根上には物見台>
また、屋根の上には物見台を設けた。
というのも、実はすぐ近くで、毎年伊勢大祭りが開かれる。高見の見物ではないが、観光をつかさどる拠点として、何か使える用途もあろうかと遊んでみた。
こうした試みは建築人には不評だが、建物にも面白さがあっていい。
昨今の建築は、あまりにまじめすぎやしないか。
(つづく)
  (前田)