料亭の建築ー材料選定ー

この4月はほとんど事務所に帰れなかった。
計画中の打ち合わせや現場監理に加え、新たな仕事の依頼が重なって応接にいとまなかった。満開の桜も移動の車中からで、春の実感に欠けたひと月だった。
ようやく先日京都から戻ったものの、連休は机から離れられそうもない。

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             <茶室4.5畳の床柱と床框を選ぶ>
このほど、青森の料亭が始まる。
設計にかかわって3年あまり、紆余曲折の連続だった。実施設計を書き改めるほどの変更もあって、萎える気持ちをなだめるのに苦労したが、施主や関係各位の熱意が着工へと結んだ。
青森駅のほど近く、かねてから営む料亭だが、道路拡幅にあたって建替えを余儀なくされたのが発端だった。
設計の依頼にあたり、女将は、これまで私が造った各地の住宅を数軒、時間を掛けて丁寧に見てまわってくれた。また、昨年竣工した福岡の料亭嵯峨野にも、料理人のご主人と連れ立って見に行く熱心さで、聞けば細部に至るまで観察に余念なく、嵯峨野の女将も感心しきりだった。

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                  <京北町の北山杉>
京都には、このたび使う丸太材を選定するために行った。
京都駅から北に1時間ちょっと、北山丸太の産地京北町がある。山々を縫って街道を進むと、次第に道沿いに山肌が迫り、北山杉の植林が美しい景色を見せる。
以前から知遇を受けていた辻計銘木、辻実智之さんを訪ねた。
先日の京都は初夏の暑さで、倉庫の中は湿気が籠もり、汗をぬぐいながらの選定だった。
部屋ごとに使う材料を、倉庫に並ぶ数多の中から選んでいく。いわずと丸太は自然のもので、太さも木肌も同じものなどあるわけがない。その表情から景色を見つけ、木作りを見越して頃合いの寸法を見立てていく。
異なる材種の取合わせはもとより、同材どうしの取合いでも、その表情や寸法を綿密に計算して選ばねばならない。この目が建築のある部分を左右する。
揃いづらいものは、予め手を尽くし集めてくれていたが、材料を見て、その場で取合わせを変えたものもあった。
聞くところ、北山も生産者が減る一方、山の荒廃に歯止めが掛からぬという。
街道筋は景観上、行政からの補助金で手を入れているものの、ひとたび奥に入ると手が行き届かぬらしい。生産本数も減少の一途で、丹波档(たんばあて)に至っては、昨年は未生産という。
丸太を使う建築需要の少なさに加え、工事費が掛けられない建築界の現状があるのだろう。昨年聞いた状況より、現実はさらに厳しさを増していた。

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                <茶室3畳の床柱を選ぶ>
私が使える材料は、けしてエリートなものではない。
潤沢な工費を得て、非の打ちどころない銘木を集めて作るものなどつまらない。
自分に見える景色を選って取合わせ、望んだ建築に結ぶことに醍醐味がある。
遠吠えにならぬよう、気を引き締め選んでみた。
  (前田)