川沿いの家竣工3.(リビング)

階段を上ると、リビングへの格子戸越しに、もう川が見える。
川向こうの景色が眼前に広がり、遥かな山の稜線までが一望できる。
そう思って書いたものの、工事途中、現場に立って眺めてはじめて安堵した。
この景色こそ、川沿いの醍醐味である。

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                <2階リビングを見る>
川の眺望を得るため、2階を主な生活の場としている。
リビング、ダイニング、キッチンに、洗面脱衣、浴室のユーティリティー、そして夫婦の寝室からなる。リビングの続きにダイニングを取り、ダイニングに直交してキッチンを配った。
計画のときから、このリビングのソファーに座った視線で川面を見せたいと思った。
リビングの奥行きが2間半、川までの距離と角度を測るも、図上ではともかく、実際目にするまでは気が気でなかった。果たして予想通りに川を望むと、川の景色は雄大で、連綿と繋がる大地の逞しさを感じる。
海近くのため流れは穏やかだが、川面のさざ波が肉眼で伺え、ささやかでも動きある景色は見飽きることがない。
リビングは南側を連窓として景色を招き入れる一方、深く差し出す軒先が空を切り取り、風景がパノラマに展開する。

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          <ソファーに座って川面を望む(夏の風景)>
南の開口に対して西面を閉じ、壁面いっぱいに収納を設けた。
小屋組の力強い架構も、頂部に暗がりを作ると陰気になるため高窓を開けている。高窓は光を採り入れるには最適で、日射しの少ない悪天候でもかなり明るい。
リビング脇の畳敷きが書斎だ。
3畳ほどの空間に北窓に面して机を備え、足が落とせるよう足元を掘っている。子供と並んで本が読みたいと、ご主人たっての希望だった。
北窓の明かりは1日を通して一定で、机前に取る窓には最適である。大きな窓には障子を立て、入る光を柔らかくした。

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                <リビング書斎を見る>
ダイニングは食卓の高さに合わせて中敷居窓を開けた。
ここから見ると同じ景色も表情をかえ、川も緑も間近に迫る。
いつもの手法だが、ダイニングとリビングは空間を分けたいために、一室で繋がりながらも天井を変えてその効果を狙っている。平天井は窓の高さに合わせ、空間を抑制して添わせた。
ダイニングと直交するようにキッチンがある。
キッチンに立ちながら遊ぶ子供を見守りたいと、リビングに向けて流しを設け、背面となる東の壁を収納に充てた。食品庫、食器棚など、壁いっぱいを利用することで満足な容量が取れた。
当初、子供がよじ登れる柱がほしいと聞いたので、下階和室からキッチン前に柱を通し、これを大黒柱とした。よじ登るかはともかく、家の中心に小屋の丑梁を受けるよう独立した形で立てた。
また、キッチンからは廊下を挟んでユーティリティーを繋げ、家事動線の簡略も図っている。

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             <リビングからダイニングを見る>
2階を生活の場とすると、階段が家族の重要な動線となる。
日々行き交うところだけに意匠には注意を払った。
玄関正面から上がるのだが、まずは下を開けて窓外の緑を見せ、吹抜は柔らかな光で包むよう北面に大きなスリガラスを入れた。日々触れるところだけに、段板には赤松を、手摺には杉を使い、身体への当たりを優しくしている。
また、階段周りは障子でリビングと仄かに間仕切ることで、下階の様子が伝わるよう心掛けた。

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                  <階段を見る>
ガラス面を多用したが、覗かれる怖れはほとんどない。
上階の生活も土地の利点を活かすのなら、躊躇することはない。
既成にとらわれず、求める暮らしを見つけることだ。
川を望み、刻々と移り変わる自然の姿に、日々寄り添う暮らしを描いてみた。
設計監理   前田 伸治
         暮らし十職 一級建築士事務所
 施 工    株式会社 大山建工
 写真提供  大山建工設計部  黒坂秀紀
  (前田)