途中震災を挟んだ工事となったが、この7月に無事竣工した。
施主のご理解もあって暫く内覧会に借り受け、多くの方に見て頂く機会を得た。
この間、訪れた人には賛辞も頂き、何より施主に喜んでもらえたことが嬉しい。
先日、竣工写真を撮ってきたので、改めてここに紹介したい。
<川沿いの家外観>
青森県八戸市に建てた住宅である。
以前紹介した「木の家T邸」に程近い新興住宅地で、まだ周辺は閑散としているものの、近くにショッピングセンターの出店計画が明らかになったこともあって、次第に活況を呈してきた。
南東に道路が接する敷地で、南側に新井田川が流れる。対岸には林が連なり、近くに人家もないため、敷地からは絶好の景色が広がっている。
これからの季節は鮭が遡上し、川幅いっぱいに広がる群れが、水しぶきを上げて跳ねまわる姿が見られる。海までわずか5kmほどのところなのだが、震災時には漁船が目の前まで津波に流されて来たのには驚いた。
施主は30代の夫婦で、2人の子供をもつ4人家族である。
これまでメーカーの展示場を数々歩いたそうだが、自分たちの求める家が見つからず、私らの設計した八戸の家を見て決めたという。
かねてから人にも話しているが、土地の利点を生かすこと、これが建築を作る上で最も大切なひとつと思っている。
住む上での要望はとにかく、土地を正しく理解することでより魅力を高められる可能性がある。価値は与えられるものではなく、自ら発見するものといっていい。
その点、この川と目の前の景色はこの土地の宝であって、この環境を生かさぬ手はない。
施主も、この景色が気に入って土地を求めたと聞いた。
現地は川に沿って遊歩道があり、護岸の堤がそれに続くため敷地から川までは幾らか離れている。敷地に立ってみたが、残念ながら立った視点からでは川面は見えない。また景色が優れているだけに散策者も多く、遊歩道から住まいが丸見えになる不安もある。
初めて伺った初冬の候、遠景に広がる山並みが殊のほかきれいに見えたのが印象に残っている。果たしてこれをどうプランに生かせるか、思案がいがある敷地だなと思った。
<ダイニングから川の景色を見る>
手始めに川までの距離と道から川面までの深さを測って落として見ると、2階からは川が見えるものの、座した低い位置から見えるかは微妙だった。
この景色をより生活に近づけられるかは、畢竟視点の取り方に掛かっている。
そのためこの眺望を主に、2階を生活の場に計画しようと取り掛かった。
ひと月余りたった頃、盛岡K邸の内覧会に家族揃って来て頂き、これまでの考えを披露した。
計画図を見て意図するところが伝わったのだろう、満面の笑みを湛えてすぐさま意気投合した。毎日がわくわくするような住まいを作りたい。
そんな話をしながら設計がスタートすることとなった。
(前田)