料亭の建築 6 造作-2

「これならうまく取れる、大丈夫だ」
中里棟梁の表情に、ほっと安堵の色が広がった。
丸太の長押を書いたのだが、これほど苦労するとは思ってもみなかった。
銘木商を介して入れること4回、どれも思うものと違っていた。

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        <丸太から長押を取る、九銘協峯社長と中里棟梁>
地元の銘木問屋九銘協の峯社長から、結局はまた京北町の辻実智之さんにお世話になった。思うことを伝える難しさを、これほど痛感させられたことはない。
思う目通り寸法を伝え、ふさわしい丸太を辻さんの目で選び送ってもらった。
見た目では同じ太さに、同じ曲りに見える丸太も、計れば違うはあたりまえで、生きものたる所以で仕方がない。その不揃いを、人の目で真っ直ぐに生かして木取るのが、長押取りの難しいところである。
背割りに沿って半割にし、丸太の自然な曲りと、面(つら)の表情の変化を確かめながら、使えるところを探しだす。丸みがいびつになっては長押にならず、指しで丹念に状態を確かめながら決めていく。
17尺の長さだもの、真っ直ぐに取れることなどあるわけがない。
探し出した面に沿って丸太を曲げて墨を打ち、それを曲りなりに落としてゆく。
最後に矩(かね)を合わせ、天端と下端を同寸に削って木作りの完成である。
やっと思うような長押が取れた。

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                <チョンナはつりの床框>
各部屋の説明は完成に譲るが、2つある大きな広間それぞれを、男女になぞらえて考えていた。この長押がつくのは後者のほうで、全体に丸太を使い優しい表現を心掛けている。
床柱も、床框にも丸太を使ったが、床柱には杉の絞丸太を、床框は磨丸太を思い切りよく斫って(はつって)みた。表情や表現を変えることで、丸太特有の艶っぽさを抑え、豊かなコントラストを期待した。
それでも框のチョンナ掛けには息をつめた。斫る人も大変だったろう。
大まかな指示を与え、後は思い切りよく一気呵成に仕上げてもらった。
仕上げには、若女将が選んだ紅色の漆がのる。
大工仕事も佳境で総勢大工25人、一斉に火がついたようだ。
込めた思いが飛び火して、並み居る職人が奮い立ち、思いをひとつの建築に収斂させていく。この瞬間の躍動は、建築人だから味わえる至福の喜びだろう。
九州南部も梅雨入りとか、最後の仕上げにかかるため気が気でない。
週末からまた現地入り、いよいよ大詰めである。
気を引きしめ、熱くなった彼らを見守りたい。
  (前田)