以前紹介した福岡の料亭も、基礎工事が始まった。
杭打ち作業を行う傍ら、木材の段取りを余念なく進めている。杉を中心に松や栗、磨丸太などの銘木と、材積も相当にのぼるため、揃えるのも容易ではない。
杉は100年超の原木から木取ることとなり、まずは順調な滑り出しとなった。
<玄関を見る、右手が四畳半台目の茶室>
それと平行して進める仕事に、青森の料亭がある。
今年はじめに話しがあって以来、漸く基本設計がまとまり、実施設計に入った。
雪深い場所のこと、使う材料や工法など、試行錯誤しながら進めている。雪国の経験はないが、少なくとも寒冷地ではサッシが当たり前の世にあって、できる限り木の建具にして欲しいという。
隙間風より、室礼を重んじる人なのだろう。
青森駅からほど近い町中に位置し、間口が狭く、奥行きが長い。
典型的な町屋の地割りに建つ。
このたび道路が拡幅されることで、建て替えざるを得なくなった。
現在の建築は、ご主人が丹誠込めたもので、随所に数寄屋への眼差しを感じる。柱や鴨居の面にも丹念な仕事をし、丸太の取り合わせなども手慣れたように映る。聞くところ、当初の請負業者はご主人の厳しい目に逃げだし、その後に請けた人がご主人との二人三脚で作り上げたらしい。
上方など各地で修業しながら、建築にも熱い目を注いでいたのが察せられる。
<腰掛けから露地を通し、座敷、茶室を見る>
実施図を書くにあたって、ご主人の仕事場に入らせて貰った。
座敷そのままを調理場にした作りで、全てが清められ、どこまでも清潔に磨き上げられていた。整然とした趣きは求道者を彷彿とさせ、思わず背筋を改めさせる雰囲気がみなぎっていた。
きっと、いつもこうなのだろう。
当然と女将はいうが、これひとつにも骨太の信念を感じる。
茶の湯を底流にした茶懐石を供し、町屋の規模ながら地元一の料亭として、その地歩を築いてこられた。
<座敷10畳を見る>
もっぱら女将と対話を重ね、これまで設計を煮詰めてきた。
それは座敷が連なるというより、さまざまな茶室を配ったというのが適切だろう。
やむなく敷地は小さくなるが、密度を持った空間に仕立てたい。
求道の精神は福岡も負けずと、双方のたぎる思いに、我ともに胸熱くしている。
日本の両端で、果たしてどのような世界が作れるか、微力を傾け寸法に集中し、力を込めて一線を引く。
(前田)