暑さ寒さも、とはよくいったもので、彼岸入りして漸く秋を実感している。
多忙が集中したこの月もひと段落、まずは責務も果たせたようだ。
とはいえ、まだ今年中に仕上げねばならない設計も山積し、日常の慌ただしさは一向に解消する気配がない。
<リビングから借景の林を見る>
玄関に面した土間とは別に、脇には下足室を設けた。
玄関をいつも綺麗にしておきたいと、たっての希望であった。
奥行き4,5尺、幅6尺の空間を、天井まで下足棚を造り付け、板戸で仕切っている。小さな内玄関とでもいえようか。最近は、このようなシューズクローゼットを設ける家も多いようだ。
玄関を上がり、格子戸を開けるとリビングが広がる。
3間角の広さのなか、上階への階段を含んで、大きく空間を吹き抜いている。
南面して天井までの大きな開口を取り、その先に広がる自生の林を借景に取り込んだ。土地のもつ利点をこの家の柱に据えるためで、空までをいっぱいにこの部屋に充満させたい。
周景とひとつになることで、この家を自然と呼応させたかった。
林の緑は刻々と表情を変え、降り注ぐ日差しとともに、その色も移ってゆく。日々の変化の積み重ねは、四季の移ろいを実感させることだろう。
自然と相対する暮らし、これがこの土地を見て初めに描いた姿だった。
木の家を求めるからには、きっとその主旨が共有できるだろう。窓を閉じ、カーテン引いてクーラー浸けでは得られない大事なものがここにはある。
そう思って提案したのがこのリビングだった。
<リビング吹抜を見る>
東西に長い家を、両端で支える構造としたため、このような大きな空間が可能となった。それでも、2階の廊下までを包んだ空間は思ったより大きく、懐が深い。
この空間には一本の大黒柱が立ち、小屋梁を受ける梁を支える。
大きな空間を端正に仕立てるためにも、小屋組みの造形は重要である。構造が意匠となり、技術は空間の意図を鮮明にさせる力を持つ。構造的に持てばいいという単純なものではない。
このあたりの呼吸が、木造ならではのデザインだろう。
赤松の梁を縦横に掛け渡し、屋根裏に杉の羽目板を一面に張った。構造とともに、寒冷地の断熱にも考慮したディテールで、この屋根面も構成されている。
今夏の異常な暑さでも、冷房も使わず、このリビングで過ごしたらしい。
もちろん空調も完備し、その効きも確認したが、何より風通しが気持ちいいという。
家族揃って自然を受け入れる生活を実践されていると聞き、意気も通じたかと一層嬉しく思った。
(前田)