盛岡K邸竣工

この盆中に書き進めた実施設計も、漸くめどが付いた。
年末から着工するが、精緻な仕事がら一年は現場に掛かるだろう。
それはとにかく、この図面で目の衰えを痛切に感じた。
今までが良かったばかりに、スケールの目盛が見えない苛立ちは、並大抵ではない。

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                   <南側外観>
パースで紹介した盛岡の仕事も、6月に竣工を迎えた。
改めて紹介しよう。
施主は40代のご夫妻で、7歳を筆頭に5人の子供をもつ家族である。
住まいを大切に考える方で、自宅を持つにあたってはかなり広範囲に見て歩いたそうだ。住宅メーカーはもちろん、気になる情報を聞けば、他府県まで脚を伸ばして駆けつける熱心振りと聞いた。
実はいま、東京でも計画が進行中だが、施主の熱心さには共通するものがある。
家への理解が、着実に深まっている証なのだろう。
自分の意志に叶う住まいを、より多くの人に求めて欲しい。

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                  <リビングを望む>
見て歩くなか、HPに掲載している拙作の、「八戸の家」が目に留まったらしい。
盛岡からは、車で2時間ほども掛かるのだが、度々訪れて心を決めたという。
初めてお会いしたのが、ちょうど「木の家T邸」の竣工前日のことだった。
実は前晩に胃潰瘍で倒れてしまい、点滴打って新幹線に飛び乗ったので鮮明に覚えている。悪いことにその日は、雑誌や新聞の取材が入っていて、後でその時の写真を送られたが、実にひどい顔をしていた。
敷地は盛岡駅から車で10分ほどの、新興住宅街の一画にある。
南に向き、西側に道路が取り付く130坪ほどの土地だ。
周辺は、特に良好な住環境を整備しようと、新たに開発された地域で法規制も厳しい。
第一種低層住居専用地域で建坪率が30%、かつ風致地区の規制が掛かり、緑化条例も適用される。条件としてはかなり厳しいといえよう。
家を建てるには土地の取得が必須だが、こうした規制を見落とすと、思う家が建たない恐れがある。土地に受ける制約は見えないだけに、事前の調査は欠かせない。
建坪率30%とは、土地に対して建物が3割までしか建たないということで、残りは庭や車庫などになるのだが、思ったより小さい面積しか建たない。
良好な住環境といえども、これほどの規制が必要なのかと唖然とする。

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          <敷地 上、南より見る 下、北より林を見る>
さらに訪れた敷地に驚いた。西側が崖になっている。
周囲はまだ買い手がないのか、空地のままである。
ただ南側が大きく開けた自然の公園となり、奥に自生の林が緑濃く生い茂る。
ひと目見て、これは活かせると踏んだ。
逆にいえば、これがこの敷地の素晴らしいところであって、この一点を計画の主眼に据えて取り込んでやろう、そう思った。
敷地は崖上の部分も含んでいることから、使える部分は存外に少ない。
与条件の厳しさを逆手に、開放感溢れる提案をと、このとき決めていた。
(つづく)
  (前田)