東京S邸竣工ー2

桜も五分咲きとなり、あっという間に4月になった。
引き続き紹介していこう。
塀に沿ってアプローチを東側に、路地状に設けた。
二世帯の住まいへの導入路となる。

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                 <アプローチを見る>
周辺が準防火地域とあって、隣地境界から3mは法規上延焼ラインが掛かる。いわばその部分に木を現すことができない。下地に防火材料を入れられるところはその限りでないが、柱などはむろん論外となる。
せっかく「木の家を」、と依頼された上は、入口である玄関には木を使いたい。
そのため、路地に3mの幅を確保して思う形に整えた。
将来ともに、この家の中心となる若夫婦を手前に、奥にご両親の玄関を設ける。
若夫婦の玄関には背の高いドアを、ステンレスのアングルを四周にまわし、栗の無垢板を両面から張った。外界とを遮断するのがドアの目的とすれば、がっしり重い扉が本来だろう。
和を望むご両親には細目格子の引違い戸をたて、欄間に無双を開けた。日本らしい軽い仕切は、扉と比して目を引くため、竹の袖壁で視線を遮っている。
アプローチの土間には那智石の洗い出しを、塀沿いにはドウダンを密植した。

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                   <若夫婦玄関>
若夫婦の玄関を入る。
上がり框に欅をおき、正面、廊下を挟んだ先が、客間を兼用した家族室になる。
突き当たりの閉塞感を避けるため、仕切りに襖をたてた。写真では不鮮明だが、江戸からかみを貼ってアクセントにしている。
左手には、2階の居住空間に繋がる階段が掛かる。
何といっても、この階段が玄関の白眉で、基本プランのときからそう感じていた。
限られた空間だからこそ、水平にも垂直にも広々とさせた雰囲気を醸したい。
念頭におきながら、軽さのなかにも造形力を感じる姿を模索した。
踊り場奥から差し出した片持梁に階段のササラ桁を持たせ、それで荷を受け、板の材厚で構成する。単材の線を明瞭に見せることで軽やかさを心掛け、寸法力で生き生きとした躍動感を表したい。
側壁に張ったボーダータイルの色味とテクスチャーが、存在を一層鮮明にし、空間を引き締める。そんな構成を狙った。
平天井には杉の縁甲板を、全体に柿渋で色付けを施した。

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                  <2階への階段>
色付けは建物全体に及んでいるが、私自身この柿渋の色を気に入っている。
以前詳しく紹介したので省くが、自然素材の柿渋は人の身体にも良く、次第に赤味を増す経年変化も好ましい。白木のなまめかしさが抑制され、木のぬくもりに包まれるのを実感する。
棟梁の配慮で、白太だけを選って使ったため、色味が揃いより美しく仕上がった。
色付けは、東京の職人によった。
初めて柿渋を塗ったと聞いたが、仕事に対し、終始丁寧な姿勢で臨んでくれた。
棟梁を立て、大柄ながらも腰軽く動きながら手早く纏めていく。笑顔が素敵な人なつっこい職人で、腕は確かだ。
これが江戸の職人気質かも知れない。
  (前田)