二軒茶屋についてー2.

内宮の参道に面した立地に二軒茶屋は建つ。
間口の小さな建物は、溢れる人並みに、たちまち呑み込まれそうだ。
対岸に山々を望み、江戸から変わらぬ町割りに往事の面影を伺う。
具体的な計画に入ろう。

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                  <客座内部を見る>
―建築計画―
細長い敷地だが、五十鈴川に繋がるこの環境を最大限に活かしたい、どの場所からも川や山々が望めるようにしたい、という狙いがあった。
当初の計画段階で書いたのが、敷地の長さを生かした階段状の桟敷が連なるもので、客席を五十鈴川に望む舞台に見立てたものだった。
内宮宇治橋から下手の五十鈴川は、今でもあまり地元の人には顧みられていない。駐車場代わりに使う住民もいる。
それに対抗する気持ちもあって、狭い幅ではあるが、川から続く神域の山々を切り取って見せることで、潜在的に持っている地域の魅力を見直すきっかけになればと思った。
自然財産を活かすことも今を生きる知恵であり、河畔の積極的な活用は地域の幅を広げるものと確信する。

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              <飛び地の川床から対岸を望む>
-敷地状況-
おはらい町に面した8mの幅に、奥行きが28mという東西に細長い敷地である。
北側には、1.2m幅の世古(せこ)と呼ばれる伊勢独特の路地が走り、世古から敷地東側に矩の手に曲がる道を挟んで、川沿いに飛び地が接続する。
飛び地は五十鈴川に面しており、当敷地からの眺望が妨げられるおそれはない。
また、おはらい町通りからは五十鈴川に向かって緩やかに土地が傾斜し、敷地東端ではおはらい町通りより1.2mほども下がる。

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                   <東西断面図>
- コンセプト-
この川を望む自然を空間に取り込みたい、それが主たるコンセプトといっていい。
飲食が主の商いのため、座敷空間の付設が求められた。細長い敷地の中で如何に満足な客座空間を得られるか、厨房やサービス部分のやりくりに苦悩した。
そこで、土地形状を利用して客席を段状に川に向かって下げることで、どの席からもこの地の自然と相対させようと目論んだ。
自然と向き合うことからも「季節」を重視し、夏冬の衣替えにあやかって室礼を変えることで、1軒の店に2通りの顔を持たせることで「二軒茶屋」と銘された。
かつての日本家屋の道具たちは、私たちの季節感とともにあった。簾戸や籐筵などの涼しげな感じは、とても空調では感じられない情緒に迫るものがある。
そんな豊かさを、ここで再び取り戻したい。
また五十鈴川は伊勢の季節を語るには欠かせないもので、川を勇壮に曳く初穂引きなど、神宮のお膝元ならではの季節の行事は、この河畔でなければ味わえない。
それらを享受できる環境は、是非とも整えたいと思った。

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                 <二軒茶屋外観>
外観―伊勢特有の形態
おはらい町の景観から、通りに面しては伊勢の伝統的な町屋の形態に従った。
おはらい町会議でもその形態は定められているが、高さについての議論はない。
かつては街道に面した高さは決まっており、およそ14~15尺を軒高としていた。
数少ない昔に残る周辺の町屋は、この高さを守って作られており、今計画ではその高さを踏襲することで、やおら高くなった周辺の町屋もどきに一石を投じたい。
形態は高さと密接な関係があるのはいうまでもなく、今後の景観行政に対する、伝統からの投げかけでもある。
(つづく)

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                 <伊勢の町屋スタイル>
  (前田)