和室前の緑を横目で見ながら、正面の格子を回り込むよう建物に入る。
アプローチの石段からは、二度屈折することになる。
格子と庇の屋根に囲われた扉を開けると、一気に視界は解き放たれ、広々とした空間が広がる。T邸の玄関である。
<玄関からアウトドアリビングを見る>
向こう正面には間口一杯に掃き出しを取り、リビングからの土間が繋がる。
アプローチから続く下屋をそのままに、連続する格子によって、外部でありながらも、どこか内部的に囲われた空間となる。
玄関からもリビングからも出入りができ、自由な空間として使うことが出来る。
主庭を使った催しでは、来客を靴履きのまま玄関を素通りさせて庭に招くことも、椅子とテーブルを設えれば気軽な応接間にもなる。
それでいて、駐車場とは植裁帯と目隠し塀で緩やかに遮蔽されるため、住空間に接続する独自な外部空間として機能する。
また土間の先には、流れが行き着く池が広がり、周辺からの視線を優しく受けとめてくれる。水を使うことへの抵抗を以前書いたが、使い方次第で芳醇な効果をもたらせてくれた。
まさにアウトドアリビングが展開する。
<玄関ホール>
玄関を上がると動線は屈折を繰り返し、絞り込むように空間が凝縮されていく。
右がアプローチ正面の壁なのだが、この壁を機軸として動線が展開されるため、丸ごと石壁として主張を持たせた。
大理石の細割りが鋭角に連なるようにと、頃合いのテクスチャを模索した。
正面を地窓にしたのは、和室前の刈込みの緑を入れようための寸法である。工事途中に流れが計画されたため、図らずもその奥に石肌を伝って流れる滝が望める結果になった。
天井は杉縁甲板、床は細割りの欅板をランダムに張った。
右奥に見える格子戸から室内に導かれる。
<ホールからリビングへ>
抑制された空間から格子戸を開けると、途端に大きな吹抜が広がり、この家を印象づけている。
リビングの詳細は次回に譲るが、このようにアプローチを開いたり閉じたりと、屈折する動線に従って強弱をつけることで濃密な空間を作っている。
面積としてはけして大きくない空間だが、導入路における密度ある構成は、家としての機能や印象を膨らませることができる。玄関の役割のひとつだろう。
日常生活にも多彩な展開を生んでくれるものと期待している。
(前田)