主屋の使い勝手から、近くに数寄屋門を開ける。
こちらが南向きとなり、前面を私有道路として東西の市道に接続する。
表門から周囲を囲んだ石垣もここまでで、かわって建物の前面には腰板張った穏やかな塀が廻る。緑を湛えた外周の表情も、ここに至って一変する。
<数寄屋門を望む>
切妻の軽快な屋根を乗せた数寄屋門に、引分けの格子戸が立つ。
威厳を以て遮蔽する表門とは異なり、こぼれるように庭内の雰囲気を外へと滲ませている。
門の構造は、門柱と控え柱に渡した男梁(杉磨き丸太)に束を立てて棟を支え、屋根を深く差し出すことで、瀟洒な佇まいに仕上げた。
門の両袖には幅1.8寸の栗のなぐりを詰め打ちし、繊細ながらも品格高く石垣を受け止め、門前の空間を引き締めている。
潜った門の正面にはウバメガシの生垣を背景に、小柄な紅葉と存在逞しい赤松を組み、カクレミノを添えて整えた。根締めにはサツキをあしらい、膨らみもたせた柔らかな苔地が来る人を迎える。
紅葉は左手の枝垂れ桜に呼応し、池畔を覆って伸びる枝越しに、遠く四阿も望まれる。
<数寄屋門を潜る>
右手に伸びる延段を歩くと、主屋の玄関に導かれる。
延段には表門で使った稲井石(いないいし)に鉄平石を組んで取り合わせ、目地深く打つことで存在感強く仕上げている。
建物沿いには、見付7分の六角なぐりの栗を詰め張りした塀を立て、たおやかなアラカシを群生させた。反対側の数寄屋門から続く塀沿いにはドウダンを刈込み、内側を杉皮張りとすることで佇まいに一層の穏やかさを加えている。
池畔の庭とは異なり、建物に近いこともあって、より身近な寸法で構成することで密度を高め、軽やかな植栽で纏めながらも、歩むごとに緊張をみなぎらせる。
<アプローチから玄関を見る>
玄関は入母屋を手前に葺き降ろし、白竹打った袖を設けて領域を獲得し、玄関に向かう延べ段が、広間前から流れ込む白砂を裁ち切る。
殊さらに誇示する意匠を避け、積み重ねた構築力で空間を勝ち取りたい。
広間に向かう延段の先には大きく飛石が打たれ、歩く先にはやがて茶の湯の露地が展開する。
(つづく)
(前田)