木の家T邸の続きを。
建て方も進み、大きな梁も観衆の見守るなか無事納まった。
大黒柱は欅を、この梁には赤松を使った。
柱は80年ものの杉材、木目が詰まった綺麗な木が揃った。
建築を請け負う大山建工は、このたび「第1回あおもり産木造住宅コンテスト」で最優秀賞を受賞した。写真で拝見したが小さな木造の住宅で、木を使いながらも木に溺れることなく、その特性を生かして組上げた木の家に仕上がっている。
これも日頃の鍛錬の証だろう。
地元でもその功績が讃えられ、このたびT邸の普請にも、耳目が集まると聞く。
現場には一般の方はもとより、工務店、大工など建築関係者も覗きに来て、この表彰を契機に、行政や林務関係団体も訪れては、木の使い方や伝統的な工法を熱心に見て帰るという。
ひとつの普請を通じ、こうした木への取組みが伝わり、関心が高まれば嬉しい。
屋根工事も進む頃に、Tさんから池を作りたいと提案があった。
このあたりはいい水が出るそうで、早速に井戸を掘ったところ、使える水が出たという。希望は玄関を開けた正面に、自然石を使って滝と池を組み合わせたものをといった内容だった。
えっ、聞いた途端この家には馴染まないだろうと、はたと困った。
水を扱うのはとても難しい。
多分に日常を常とする生活環境の中では、部分が拡大視されると歯が浮く取り合わせとなる。陳腐になりかねない懸念が募る。
また自然石で作る滝と池というだけで、否応なしに「日本」に囚われる。
とかく日本建築を主として活動していると、こうした依頼がある。全体を日本という機軸に則って深める造形ならばともかく、趣味志向の域でいわれる日本では、とても協力できない。
そういった日本を否定するわけではないが、そういった日本には縛られたくない。
そこで提案したのが、上記の図である。
切石を並べその石肌を伝うような滝口を和室前におき、そこからせせらぎを伝って玄関前の池に注ぐ。幾何学に整えた水路と池で構成し、情緒的雰囲気を排除し淡々とした構成としたい。
Tさんもこの提案を大いに喜ばれ、直ぐ取り掛かることとなった。
刈込みの植裁と水路が周辺から住環境を切り取り、動線と共鳴する流れが結界を鮮明にする。アプローチはもとよりリビングに腰掛ければ、滝から池までが眺めて取れる、という狙いである。
完成を私も期待している。
(前田)