中部建築賞受賞

私事だが、五十鈴茶屋が中部建築賞を受賞した。
これまで、このような日本建築が入賞することは珍しく、先日12月9日に表彰式が行われた。

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過日、2次選考における現地審査が行われたが、そこで審査員との間に、伝統と創造について熱い議論があった。
決して古い建築を再現しようとするのではなく、今の時代に現代の建築を作るべく、伝統を規範において新たな創造を図らんとする、我が姿勢を訴えた。
その主張が認められたのだろう。
審査でもその点が評価され、講評でも触れられた。
とかく日本建築は゛どこにでもある゛という感覚が拭われず、現代の創造と捉えられることが少ない。
確かにそういった紛いものが、あまりに多いのが事実である。
柱が立って屋根が乗れば、みな日本建築だと思うこと自体が間違いなのだが、既成概念で判断されてしまう。
しかし、我が国の木の造形は、それほど短絡的なものではない。大胆かつ繊細に、時代ごとに先人の知恵に学びながら、精一杯に創造溢れる造形を華開かせてきた。
私もこの時代に生まれた1人として、後塵を拝すものである。
これを次へのステップに、勉励これ努める覚悟である。
以下、講評を紹介し、多くの方のご批評を請う。
(前田)

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第40回 中部建築賞講評より
 五十鈴川の畔、おかげ横丁の入り口に当たる市営駐車場脇のガソリンスタンド跡地に、伝統的だが新しい商空間が誕生した。伊勢の伝統的素材と職人技術、民家様式を駆使して新たに創作されたプラザ形式の観光商業施設「五十鈴茶屋」である。
 これを敢えて創作と表現したのは、街道や参道型のリニア配置、跡地形式が多い日本の伝統的商空間としては例の少ない中庭を、町屋形式=京風や江戸風ではなく民家様式=伊勢風の店舗で囲んだプラザ式配置を、再生や修復ではない新しい試みと評価したからだ。
 プラザは欧米に多く見られるフェスティバル・マーケットのタイプであり、博多のキャナルシティ(ジョン・ジャーディー)以来、国内各地に類似するスタイルが採用されている。ここは伊勢の伝統を欧米式のスタイルに織り交ぜた、まさに和魂洋才の商空間と言える。
 この「五十鈴茶屋」の誕生によって、市営駐車場に降り立った客に、おかげ横丁への玄関を意識させる構えがしつらえられた。五十鈴川に対しては、その眺望の場となる関係を生みだし、川沿いの新たな景観=伊勢風のウォーターフロントの風景を強調した。前面道路に対しては伊勢を意識するには不釣り合いだったと思われるガソリンスタンドから和の街並みを創出するなど、周囲に対して伊勢の風情の持つ価値を高める効果を派生させた。
 このプロジェクトは設計者とおかげ横丁を創った濱田氏との出会いに始まる。本物としては物足りないと言うおかげ横丁への反省から、本物を追及して欲しいと依頼された設計者の2年間の計画と2ヶ月の集中的な実施設計は、規矩術を知り尽くした手練れにこそなせるもので、手描き見通し図に始まる密度の濃い書き込みの入った手描き図面は優に百枚を超える。
 この図面と設計者の現場に即応した判断と指示、地場工務店の元に集まった伝統職人達によって「五十鈴茶屋」は成し遂げられた。
 伝統は新たに創造されてこそ伝統になると実感させられた。
(尾関 利勝氏)