日本家屋と道具

レポの続きです。
知らないうちに室礼に触れている私たちですが、かつての日本ではどう暮らしていたのでしょうか。
日本家屋の特徴と、ちょっとしたもので生活に彩りを添える日本人の道具の使い方についてです。
ではどうぞ。
~ 日本家屋と道具 ~
日本建築は極めて開放的に作られています。
障子や襖などといった簡便な装置で区切られているので、ひとたび事があればそれらを外して、思いっきり広い空間ができる。冠婚葬祭は今でこそ、どこかの会場を使って行われるのが一般的になりましたが、ちょっと前までは自分の家を使ってやるのが当たり前でした。
私の父などは「自分の家から出られない死に方をするな」と、小さい頃からいわれていたくちで、冠婚葬祭を自宅でまかなえるということが、完結した住宅の基本単位でもあったんですね。

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結婚の祝宴には襖を外し、時には縁を張りだして設え、葬儀には周囲に幔幕を張り巡らすことによって広い斎場を造り出す。
その融通性を遺憾なく発揮させて、空間をダイナミックに、時にはドラマチックに表現してきました。
それは取りも直さず、生活の舞台としての身近な家であると同時に、周辺の社会生活の中での家の役割があったからだと思うんです。
一見すると「曖昧な空間」でありながら、用途においてさまざまに連結し、活用の方途を延ばす。そんなファジーな空間として、日本家屋は構成されていたのです。
そこでの家は人と家族の成長を見守り、社会環境の変化や四季の移ろい、「ハレ」や「ケ」の場面に応じてさまざまな演出が行われ、生き生きとした舞台が作られていたんだと思います。
そこに用いられたのが道具というものでした。
建築に比較的近い存在の襖や障子などもそうですし、衝立や屏風、几帳や簾、御簾といった遮蔽物、さきほども出ました幔幕などといった、さまざまな装置で緩やかな区切りをし、空間をその都度、自分たちの目的に合わせて使ってきました。
またそれらの装置が、極めて装飾的に用意されていたことも特徴でしょう。

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さらには箪笥や卓袱台、お膳などといった、生活で必要な道具たちも私たちの暮らしに彩りを添えていました。
それは季節や行事によって、使い分けながら用いられてきたのも特徴です。
そのように道具にすら季節とか、ハレとか、ケといったものがあったんですね。道具にまで四季があるなんて、恐らく世界的に見ても日本だけではないでしょうか。
例えていうなら、夏家具とか正月用の膳だとか、婚礼屏風といったように、はっきりと季節や行事と対応した道具があって、その使い方が暮らしの中に培われていたんです。
また、それらはあくまでも道具であって、家具ではありません。
日本家屋はそのように、どの部屋を何の目的に使う、というような特定された使い方をしてきませんでした。
ある意味、自在な使われ方が根底にあって、あくまでも人が目的に添って、主体的に設える空間に住まってきたんです。従って日本家屋には、西洋のような椅子、テーブル、ソファーなどの家具に囲まれ、厚い壁やドアなどに室内装飾が施されるといった恒常的なインテリアは存在しません。
時間の変化や目的によって時々に変わる室礼が、いってみれば日本でのその場を彩るインテリアだったのです。
如何でしたか?
さて、だんだん夏に近づくにつれリビングの絨毯が暑苦しく感じてきました。
燦々と差し込んでくる西日を避けて、部屋の中央に座っていたり。
絨毯を藤敷きに変え、窓には簾を掛ける。家の衣替えです。
これでリビングも立派な夏向きの空間となりますね(笑)
次回からは、ー室礼の中の道具ー、をお届けします。
四季をもつ日本人が、どれほど感性が豊かか(持っていたか?)についてレポしていこうと思います。
  (かりの)