キッチンから板戸一枚を隔て、洗面、脱衣から浴室が続く。
とかく裏方の水回りだが、住まう上では欠かせない。
人間の生理と密接し、誰しも個の人として開放される場所である。
これらユーティリティーの連携に、坪庭を用いた。
家事動線への配慮もそうだが、隣家の視線を気にせず、うるおいある緑を近くにと、空間の充実を心掛けた。
浴室、洗面、トイレが、この庭に面する。
坪庭には、娘さんのたっての希望で紅葉を植えた。
落葉樹には、常緑を添え景色を整える。ここでは南天とアオキを添えた。
地には白川砂利を敷き詰め、奥に照明を仕込む。窓の高さを浴槽の天端と合わせ、座しての視線を遮らぬよう、浴室いっぱいに庭を取り込んだ。
洗面、脱衣とひと部屋で括られることが多いが、使い勝手は異なる。
そのため、各々をコーナーに分けている。部屋中央に造り付けた棚が分節の役を果たし、キッチン近くには洗濯機を置く脱衣スペースを、採光が取れる坪庭に面しては洗面コーナーを設けた。
洗面は大きな鏡に洗面台、収納棚を設け、カウンター下には椅子が入る。
洗面台の大きさ、深さとも、奥さまの希望に沿って探し当てたが、木のカウンターとも馴染みよく納まったようだ。
トイレは究極のプライベート空間だ。
囲われた安心感はもちろんだが、閉じこもりがちな場所にもなる。
そこで、坪庭に面した窓を下方に取り付け、景色を取り込んでみた。
目線を気遣うこともないばかりか、この緑が思ったよりインパクトがあり、小さい窓だが随分息抜きをさせてくれる。
脇には大きな鏡と手洗い。
このカウンターの材料は旧宅の古材、鏡は開き戸になり中が収納となる。
トイレを大事にする奥さまと話すうち、現場で設計変更、この形に落ち着いた。
夫婦の部屋は、とかく子供を優先するあまり、おざなりになり兼ねない。
家を建てようとする多くは小さい子供を持つ家庭とあって、広い敷地ならとにかく、優劣を選択せざるを得ない計画では、つい子供を優先してしまう。
将来計画と借入れ年齢がその要因なのだろうが、勢いその頃の子供中心の生活が、家づくりにも反映するのだろう。
私にも覚えがあるが、子供として家にいる時期は思うより少ない。
大きくなるに従って自分中心の生活になり、知らないうちに家を離れていた。
ある日気がつくと、最も陽当たり良い部屋が遊んでいる、という例が多いと聞く。
やはり家は、夫婦単位で暮らす時間が長いということである。
年を経ても、夫婦が充実した暮らしを営める。
それは家族にとっても、きっと自慢の家になるに違いない。
まずは自分が住みたい家にすることですと、いつも依頼主には話している。
寝室は玄関から回り込む位置にある。
自ずから生活空間から画された場所になる。
中は和室8畳、手前にウオーキングクローゼット3畳が付属する。
外から見て、大きく屋根が吹き下ろされているのがこの場所だ。
その小屋裏を利用して、クローゼット上部に畳敷きのロフトを作った。内部は4畳の広さで、ちょっとした書斎にもなる。中林君が作った竹の手摺があるところだ。
和室から続く南に、塀で囲ったデッキを繋げた。
この境の戸も全て引き込みになっている。
障子、ガラス戸、網戸、雨戸と、必要に応じて閉め、全て開放することも可能だ。
この空間、塀を回したことで外から覗かれる恐れは全くない。
デッキは四畳半強の広さがあり、こういう場所を持つと使う楽しさを与えてくれる。
正面入口に植えたシンボルツリーは寝室の借景にもなっていて、樹の成長に合わせ、このデッキも緑で覆われるに違いない。
これも居住性を大切にと、願ってのことである。
(前田)