五十鈴茶屋、北側の外観である。
上階の格子と虫籠窓(むしこまど)の連なる意匠に、平入りの間口が展開する。
間口11件、奥行き5間、堂々たる佇まいをめざした。
老舗としての風格を滲ませたい、そう思った。
外観からは軒を出来るだけ低くしたい、これが日本建築の特色だろう。
穏やかに水平に連なるさまは、まさに日本の美しさといっていい。
しかし美しさだけでは建築にはならない。美しさと機能を合致させ、用と美がひとつになった造形をめざさねばならない。
桁髙からすると、赤福棟より五十鈴茶屋は2.5尺も高い。建物が大きいせいもあるが、2階に設けた座敷寸法から積み重ねた結果である。
そこで、北面は“せがい”といって、柱から水平に腕木を出して出桁を受け、それによって軒を深く出す手法を取った。腕木上に軒天井を張り、壁面の高さを抑えることで、軒のラインと壁面の調和を図った。一方、中庭側は差し出された下り梁で出桁を受け、勾配なりに室内空間を大きく確保し、深い軒の出を得る。
実は桁髙の違いを、この軒の出で調整し、軒先の高さを赤福棟と、ほぼかわりなく納めている。
軒先の高さを揃えることで、異なる建物の違和感を抑えた。
北に面する建物は、とかく暗い印象を与えかねず、計画には慎重になる。
どうしても影が出来るからだ。
以前この場所には高い建物があって、日中影になる空間は、何か薄汚れた寒々しさがあったと記憶している。間違ってもそうあってはならない。
その点でも、高さを抑える効果は計り知れない。
加えて、中庭の存在は効果的であった。
入口の建具を通して中庭の眩しさが目に入ることで、そこに”光”が見て取れる。
影にいながらも、その日溜まりを望見することによって、充分光を感じることができるのだ。漆喰の壁色も、大いに役立ったようだ。
建物に寄り添うように、煙突が起立する。
「作り屋」としての、五十鈴茶屋がもつ矜持である。
ここは形ばかりの”売り屋”ではない。実際に菓子の製造から販売までを、この場所で行う。まさに「作り屋」なのだ。この場所で作った旬のものを、来る人に直かに伝える。
この土地と季節が織りなす菓子ならではの展開であり、工場生産品に気持ちが伝わるかと、卓見してのことであった。
一転、中庭に面しては開かれた佇まいをとる。
せり上がる段状に調べを合わせて屋根が重なり、外観にリズムを与える。
大工泣かせの小屋組であった。
ここでも虫籠窓が意匠を引き締めるのに役立った。
この虫籠窓、多用したがその場所によって曲線を異ならせている。
意匠上の配慮だが、左官がその気持ちを受け止めて塗ってくれた。
(前田)