新五十鈴茶屋計画について(6) <茶屋>

赤福のへっついを横に、通路は中庭へと抜ける。
へっつい上の吹抜も、中庭に行くに従って低く屋根に覆われる。
深く差し出された軒は建物の影を色濃くし、そのコントラストが陽の当たる中庭を、一層まぶしく輝かせる。

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その通路に面した、虫籠(むしこ)窓の建物が茶屋である。茶葉を商う。
伊勢は元来お茶の産地で、市街から山間部に入った途端、大きく茶畑が広がる。
今では日本中が”やぶきた”のお茶になってしまったが、この地方では日本古来の在来種の茶の樹がまだ残っており、その滋味深い味わいを紹介したい、と企図された。
まさに伊勢茶の根源である、といっていい。
建物内部は大きな吹抜をもち、煤竹で編まれた八方の灯具が照らす。
灯具は八角のすり鉢状の形。その全体に少し起くりをつけて、茶のもつ穏やかさに沿わせた意匠とした。灯具全般は岐阜の職人に依頼したが、作るのには相当難儀を極め、試作に継ぐ試作でついに思い通りに仕上がった。

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茶屋正面には、大きなカウンターが置かれる。
背面の壁一面には,錫で作られた茶缶に種別ごとの茶葉が並べられ、カウンター脇では鉄鍋で茶葉が焙じられる。箱階段で上階と繋がり、吹抜に面しては湿気を嫌う茶葉を格納、カウンターには呈茶の設備が組み込まれる。
これらの家具を請け負ってくれたのが、伊勢の山本 明さんだ。
私淑する家具職人である。
茶屋だけにとどまらず、至るところの作りつけの家具を拵えてくれた。伊勢で仕事をするようになってからのお付き合いで、もう10年来、仕事をお願いしている。
山本さんの作る家具は素朴で美しい。人柄そのものといっていい。
いつも現場で顔を会わせると、必ず帽子を取って会釈してくれる。今の人で、しかも仕事をしている現場で、帽子を取って会釈をする人は少ないだろう。その謙虚な姿勢が、山本さんの全ての仕事に現れている。細かいところもないがしろにせず、意図を踏まえた仕事で応えてくれる。

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私が書く図面の”尺寸”にも、大いに賛同してくれる一人だ。
山本さんも若い頃はいうまでもなく尺寸だったが、時代とともにミリの仕事へ。
私の仕事をしていただくようになってから、また尺寸へ戻ったと聞く。
「やっぱり尺寸はええですな」、会うとその話になる。
「尺には独特の寸法の感覚がありまんな」
このような昔ながらの家具を作ってくれる人は、もう伊勢ではいないだろう。
そう思うと尚更に、いつまでも元気でいて頂きたい。
建築を支えてくれる、貴重な存在である。
  (前田)
追、山本さんはHPでも紹介しています。是非ともご覧下さい。