改めて紹介しよう。
S君こと、左座喜男さんだ。
完成前に紹介して迷惑をかけてはいけないと思い、敢えてS君としたが、彼もこのブログの愛読者で、近親者に紹介もしているらしい。そうならば却って匿名では失礼かと思い、昨日伺いを立てた。
彼とはもう15年ぐらいの付き合いになるが、茶道具屋として立派な独り立ちをされたように思う。受けた恩を忘れず一途に勉める真摯な姿勢が、自然と周りから引き立てられる何よりの原因だろう。
友人の贔屓目かも知れないが、京都の主家であるご主人から受け継いだ”何か”が、独立した彼の中で次第に醸成されてこられたように感じる。
彼の念願である「茶の湯サロン」も、そろそろ完成が見えてきた。
茶室、天井の網代を編む。
杉のノネ板といって、杉板を薄く割ったものを幅に切断し網代に編んでゆく。根気のいる大変な作業である。こればかりは、既製品では得られない質感が魅力だ。
天井の原寸を元に、網代の地割りを書く。それに従って編んでいくのだが、割板のため材自体に粘りがない。またそれだけ薄いものでもあり、厚さは2~3㎜ほど、無理をすればすぐに割れてしまう。
網代の幅に切断したあと、編む前に”うずくり”を掛ける。
これは冬目といって、杢目が線になっている部分(線と線の間が夏目)を際立たせる作業で、より杢目がはっきりと浮き上がる。材自体に凹凸が生まれるため、テクスチャーが際立つ。元が割って作る板のため、長いものがない。従って、それをつなげるようにして編み込んでいくのだが、果たして天井の角でうまく割り込めているかが見るポイントになる。
樋口さんの指導のもと、若い大工がその作業にあたったと聞いた。
少しずつ、こういう機会に仕事を覚えて行くのだろう。
広間の天井と同時に、小間の網代も張り上げていく。
空調の吹き出し口などとの取り合いもあって、思うように進まない。しかし、ここまで来ると完成は間近である。押えの大和竹を打ち、小間の天井も完成した。
樋口さんも、水屋は若い大工に造作を委ねている。
時々に尋ねながらの作業のようだが、腰板も無事納まった。
この場所も、小丸太や内法材などが複雑に交錯するが、みんなの手が馴染んでいる。
もう心配ない、と見た。
やっと宮本さんも、ご子息の啓君にも、安堵の表情が見て取れるようになった。
それだけ、それぞれの立場で気を揉んでいた、という何よりの証だろう。
大工は仕事を後輩に伝え、宮本さんは子息に困難を解決していく術を教えた。
小さな仕事が、小さな伝承を生んだようだ。
(前田)