S邸、材料選定の続きである。
広間の床柱を”杉磨絞り丸太”とした。
設計で取り合わせたことだが、材料選定の初日、ひと目見て決めた。
少し派手な印象を受ける丸太だが、そこは天然物。 柔らかな落ち着きがある。
絞り丸太は面つけが難しい。しかもそこに床框が取り付くので、絞りの具合を見ながら慎重に場所と高さを決めてゆく。
恐らく宮本さん自慢の1本だったのだろう。
絞りに床框をひかりつける大変さも話したが、それでもこの柱に決めた。
この柱を中心に取り合わせを決めてゆく。
床框は地元、星野で伐れる磨き丸太を使うことにした。施主も同道し1日掛けて探しに出掛け、加工場に帰るやいなや框の木取りに向かう。
広間・小間ともに磨き丸太の入節としたが、広間は絞り丸太との出会いを考えて少しおとなしいものを、小間は景色を重視して選んだ。
小間の床柱は赤松皮付丸太。
思うものがなく、替えて貰った3本目でようやく落ち着いたが、気持ちを察してくれたのだろう。「もう1本見て欲しい」と、宮本さんが再度捜された逸材を見るなり、ひと目で気に入った。
相手柱には”あて”を添えた。かなり暴れたものが入ったが、床柱との取り合わせを見ながら、節を落とし、なだめながら見どころを探って墨を打った。
店小上がりの床は、茶室と被らないように軽くする。施主は使ったことがない取り合わせに最初こそ疑問を投げていたが、最後は得心されたようだ。
これらの材料、まさに今回の仕事での出会いである。
品行方正、申し分ない材料ならお金を出せば手に入る。あまたの材から選ぶのなら、好き勝手がいえる。
が、この出会いの中でひとつの材の見どころを探し、目をもって活かすことができれば、これほど嬉しいことはない。お互いの人と人との出会いが木の出会いを誘い、それを見立てることで初めて自分の木になってゆく。これこそ出会いの産物以外の何者でもない。
その上で個の材としての主張を抑え、全体の調べを合わせることで互いを補い、より高い次元で結ぶことで空間を高めてゆく。まさにこれが「取り合わせ」の妙だろう。
木を見る奥に自然を見、さらにその向こうに景色を思い描く。
これも自然と肌を合わせて暮らしてきた、日本人ならではの感覚なのだろうと思う。
「真剣勝負に鳥肌が立ちました」、S君の感想である。
(前田)