色を決める

プランが決まれば、施主最大のハードルが色決めといってもいい。
外壁、屋根、アプローチ廻りの外部から、各部屋の床、壁、天井へと続く。
初めてのマイホーム、ともなれば自分のことなど客観的に見られるはずもない。
通常の家だと、クロスやフローリングのカタログの山から選ぶことになるのだが、メーカーも然る者で、どれを選んでも、そう大きく間違えるものはあらかじめ入っていない。
それでも自分のこととなると迷う。
それが我が家を作る、ということだと思う。

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山口さんのお宅ではクロスなどは一切使わなかった。
全て無垢の木と塗り壁である。
奥様の古民家好きに合わせ、こちらも着々と色決めの準備を整えた。
通常の家と違っているのは、木部の塗装だと思う。
私も伊勢のおはらい町界隈の仕事では、全て”色つけ”を行っている。柱、梁はもとより屋根の裏板、垂木、建具に至るまで、全てを塗る手法だ。
実はこの”色つけ”の技法は、古くから日本で行われていた。
京都などに残る古い町屋を想像してみて欲しい。黒光りした柱に、拭き込まれた床板。
あれはそもそも白木ではない。色つけがあらかじめしてあるのだ。
ベンガラに墨、柿渋といった天然素材を用いて、最初から木材に色を付けている。

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当時は造林の技術が発達していないため、特に杉などは赤白の源平や節なども沢山出たはずである。色を付けることは防腐的要素ももちろんだが、材としての見苦しさを抑える意味もあったのではないかと思う。
今でも町屋の再興や、古民家の修理などでは広く行われているが、一般の住宅ではそのようなことはせずに白木がほとんどである。
明治以降、本格的な造林の技術が発達し、美材良材が安易に手に入るようになった結果だと思う。逆に今では節があったり曲がった材料などは、市場に出回らなくなった。
木材も商品になったのである。
山口さんのところは予算的な意味もあったが、大いに節がある材料を良しとした。
決して美材ではないかも知れないが、木目の通った立派な木である。
色つけを施すことによって、建築材として整え、空間に馴染ませていこうと思っている。
  (前田)