本日は、山口邸の見積もり交渉に関わった事務所きっての交渉人、松尾さんの
経過報告を参考に、話をしてみたいと思います。
前回、選定業者の(有)扇光さんを少し紹介させていただきました。
扇光さんには大変ご無理な工事金額で承諾していただいたのですが、
そういう経緯は当事者でもない限り”おもて”に出ませんよね。
結構この影の部分が大事なんです・・・・。
それでは、「松尾交渉日記」です。
<9月15日(金)>
今日は、朝から山口邸の現場説明だ。
山口夫妻と建築業者5社を選定、見積り依頼を行う。
・・設計内容も図面も知ってはいるが・・・・
・・・・・・施主の予算内でコレ納まるんかいな?
期待3割、不安7割の1日の始まりである。
しかし、金額もさることながら、各社の人柄にも注視したい。
凹んでばかりはいられない。頑張らねば!
<9月29日(金)>
2週間経ち、ようやく見積りが出揃う。
うち1社のハウスメーカーは辞退。
残り4社が出揃ったところで、施主と相談の上、1社に絞る。
(有)扇光さん。金額の面でも現場説明会での熱心さが現れたようだ。
扇光の専務さんは一度お会いしただけでも、その人柄には好感が持てる方。
きっと胸の内を判ってくれるだろう・・・・。
しかし、これで本決まりとなったわけではない。
施主の予算とはまだ相当な金額の差があるのだ。
これからが踏ん張りどころだ。
<10月2日(月)> 夜 第1回交渉
見積もりを精査した上で山口さんも扇光にほぼ内定。
その上で提出された見積りの中での不明部分の確認に、扇光を訪問する。
扇光専務さんに会い、見積り内容を再度確認。互いに快く了解。
話もそこそこに専務曰く、
『是非やらせてもらいたい!、図面を見るとわくわくするんです』
という。(・・・図面から建築を楽しんでいるんだろう・・・)
しかし、扇光が出した金額でも、施主の予算とは開きがある。
専務はしきりに、「指し値は幾らか・・・」と聞くが、・・・・・・答えられない。
・・・・猫の使いでは帰れないし・・・・。
「ええぃっ!」と思い切って話をし、そそくさとその場を後にする。
後刻、携帯に専務から電話が入る。声のトーンが低い。
「4、5日考えさせてほしい・・・・・」
あぁ、微妙だなぁ・・・・・と思った。
<10月10日(火)> 夜 第2回交渉
扇光に出向き、再度専務と交渉。今度は専務から金額の提示があった。
きっと専務も常務(弟)と相談したんだろう。
しかし!まだこの金額では・・・・・(再度)意を決して、
『まだこの金額では、施主も納得しません!』
山口夫妻の顔を思い出しながら専務に吠える。
だが、ここで専務に降りられたらどうしようか・・・と、もう一人の私が焦っていた。
<10月11日(水)> 第3回交渉
施主の予算に近づけるため減額要素(案)を提案。
こちらからその内容を伝え、交渉を進める。
専務からも逆に提案させてほしいとの意見あり、了承。
(・・・この後、減額要素を元に相互で度重なる折衝を行う・・・)
ようやく光が見え始めてきたか・・・・。
<10月14日(土)> 夜 第4回交渉
・・・ずるずると行くのが私の悪い性分だ・・・
「しかし今日こそは!」と思いつつ、扇光の扉を叩く。
『なんやかんやゆうても、最後は専務が決めなならん』と、専務に迫る。
扇光の交渉舞台、応接室の机がやけにデカく感じた・・・。
暫し沈黙の後、「その金額でやらせてもらいます」と、専務からの返事!
(ホッと胸をなで下ろす・・・・)
あぁ、これでようやく帰れると思った・・・・。
(松尾)
交渉中には内心、「あまり無理を言っても如何なものか」と、誰でも思うものです。
特に、自らあけすけに金額を言えるお施主さんは極めて少ないのです。
それを察して、図面上で描く設計の 『夢』 と、金額としての 『現実』 を
合致させ、施主の 『理想』 に近づけるのも建築の大事な仕事だと思います。
それには3者がそれぞれ互いを尊重し、良い輪ができなければなし得ないことです。おかげさまで平面プランを変更することなく、仕様変更などで対処できました。
今回でも、扇光さんが私たちのこれまでの仕事を理解してくれた上で
「是非!」と仰ってくださったことが何よりの前進に繋がったのだと思います。
まさに、『人を組む』ということが、建築の要諦かも知れませんね。
(かりの) えー、最後の方は前田さんがいつも言ってることの受け売りですが。