歳末にあたって

各地もようやく以前に戻りつつあるようで、移動の新幹線も随分混んできた。
コロナに明け暮れた一年だったが、渦中にあって日常が変わってしまった方も多くいるのではないだろうか。私どもも出張が制限されたり、仕事が延期になったりと翻弄された一年だった。
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         <スターバックスコーヒー伊勢内宮前店>
そのようなことで、竣工写真が撮れていない建物も多かった。
写真の「スターバックス伊勢内宮前店」もそのひとつで、一昨年の秋に設計依頼があったものの、コロナ禍で遅々として進まずにいた。ようやく昨年9月から工事に掛かっていたが、現場打合せもコロナ禍で思うように進まず、現場も四苦八苦した。
小さな建物だが、全国区で展開する店だけに制約も多く、限られた打ち合わせ時間の中で、きめ細かいデザインを詰めていくのは想像以上に苦労が多かった。
伊勢のおはらい町通りは景観地区であり、建築の形や開口部、仕上げやその色についてまで厳しい制限がある。審議会がコロナ禍で延期になったり、審議委員との意見交換の機会が奪われたりと、コロナ禍での開店直前まで調整に戸惑った。
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         <2階客席からおはらい町方向を見る>
1階はスターバックスのバーカウンターを、そこから階段を上って、2階が客席になっている。おはらい町通りに面しては床を一段下げて、建物を街並みに合わせつつ、西側は間近に迫る伊勢の山々を望むよう対している。小屋組みを整然と組み、内部の意匠に貢献させた。
正面妻の鬼瓦は、スタバのマークである”サイレン”をモチーフに、利根丸の巴には珈琲豆をあしらったりと、いつもの三州の鬼師梶川さんに焼いてもらった。
細長い町家ならではの敷地にあって、両側はすべて壁とし、屋根に10カ所の小さなトップライトをランダムに開けて光を降り注ぐ。小さな建築ながらも、濃密な空間になったのではと思っている。
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         <2階客席 トップライトからの日差し>
建築は、人と会って進めるものだということを痛感した。コミュニケーションを深めないと、やはり形にはならない。思いを伝えることが建築を作ることだという当たり前のことを、あらためて思い知らされた一年だった。
年明けからは、また新たな現場も始まり、心機一転取り組んでいきたい。
思うように更新も出来ずにいるが、小欄を通じ、多くのご叱正を戴ければ幸いである。
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          <2階客席より伊勢の山々を望む>
  (前田)