串本の町家 竣工4

いよいよ東京の仕事に掛かりだした。
基本で書いた平面を確かめながら、慎重に高さを割り出していく。
それぞれの屋根の納まりがつけば、実施設計スタートだ。
串本の町家の続きを。

画像

             <厨房から中庭を通しみせを見る>
この仕事で棟梁を努めてくれたのが山本さんだ。朴訥な方で口数も少ないが、肝心な仕事はけしておろそかにしない。監理に赴けば、それなりに質問もあるのだが、私の話す呼吸で全てを理解してしまうといった人柄で、根っから木の建築が好きなのが分かる。
しかしここまでには相当に図面を読み込んでいて、納めていく仕事のどこを見ても、図面を見間違えることなどない。寸法は設計人として譲れないのはもちろんだが、材と材が組まれて納まっていく仕事の重要性を、肉体で理解している貴重な人だ。

画像

                  <みせ2階を見る>
当初、2階は倉庫の予定だったが、そんな使い方はもったいないと、みせのプライベートスペースとして考えていた。接客に使うも良し、個人的な作業スペースとしても、また人を集めたイベントなどにも使えるだろう。
出来てみれば施主もなるほどと、生かした空間の使い方を考えているらしい。
桁高を抑えた関係で、小屋梁は頭上近くを走るが、圧迫感はない。
窓外には中庭の緑を背景に厨房棟を望む。小さな庭だが、2階からも緑が見えるとあって、吹き抜ける風とともに心和むものを感じる。
厨房棟も2階建てで、1階は空調換気システムを取り入れた、極めて近代的な設備で纏められている。壁から天井までステンレスで固め、天井裏で空調と換気をシステム的に処理するよう考えられている。
これもご主人のこだわりで、菓子を生み出す創造の場も、けしてないがしろにしないといった、心意気の現れだろう。

画像

                  <正面全体を見る>
すでに開店して4ヶ月が過ぎたが、皆さんに好評のようだ。
開店時に、屋号も「菓子 潮ざき」と改め、名実ともにご夫妻の店としてスタートを切った。引き渡し間際に、みせに働く女性方が掃除に駆けつけてくれたが、心ひとつに纏まっている姿を見て、改めてその底力を見せつけられた気がした。
鬼瓦はいつもの、三州の梶川亮治にお願いし、各所に力のこもった力作を載せることが出来た。引き渡しには遠路駆けつけてくれ、久し振りに一夕酌み交わすことが出来たのは幸いだった。
最後になるが、紹介しきれない数々の職人がこの建築に携わってくれた。
みんな気安い人ばかりで、気持ちいい仕事をしてくれた。必ず一年の後には再度伺い、施主夫妻をはじめ、皆と会えることを楽しみにしている。
小さい建築ながら、思い出深い仕事になった。
  (前田)
設計監理   前田 伸治
         暮らし十職 一級建築士事務所
施 工     株式会社 小寺工務店
           社長  小寺 孝佳
           監督  田代 邦彦
家 具     ヤマコー株式会社
           担当  村山 千利
造 園     株式会社 マエシバ
           担当  前芝 克哉