慧然寺境内整備<竣工5.>

玄関から大廊下の正面突きあたりに、寄付のひと部屋を設けた。
猫間障子から見える主庭の緑が、来る人に期待を抱かせる。
見えるようで見えないことに、人は奥ゆかしさを感じるのだろう。

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                  <寄 付>
内部8畳敷きに、その内の1畳を床とした。これを原叟床(げんそうどこ)といって、一枚の地板に床柱を立て下方を吹き抜く。寺院のとかく大降りになりがちな造形の中に、ひときわ茶室を思わせるようなひと部をと思って作った。
地板には赤松の杢板を、床柱には赤松の皮付きを取り合わせた。天井は桐を市松に編んで張ったが、何とも柔らかく優しく映る。桐の網代は、いつもの京都京北町の辻計銘木の提案で、この桐と決めて床柱を選んだ。外部の矩の手に濡縁を回し、主庭の緑を部屋いっぱいに引き寄せる。
また、実際の茶の湯の寄付としても使えるよう、濡縁には立ち蹲踞を設け、濡縁づたいに蹲踞を使い、入側から書院に席入りできるよう配慮している。

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          <寄付から立ち蹲踞越しに書院を望む>
大廊下から入側を通って書院へと導かれる。
入側の桁には13尺の北山丸太を入れ、屋根裏を見せて整えている。本堂と書院が対面することから、屋根勾配を決める大事な高さで、また建具を含めた全体のバランスで意匠を決めた。寄付から入側を巡る開放感がこの空間の醍醐味で、都会の喧噪にあって周囲から隔絶された別世界を想起させてくれる。
屋根は銅板の腰葺きに三州の瓦を葺いた。鬼瓦も20箇所ほど載せたが、これもいつもの梶川亮治にお願いして焼いて貰った。禅宗とあって、目に立って面白いものはないが、ひとつずつ鬼の表情が違う。
寄付の鬼には達磨を載せ、本堂からその愛らしい姿が望まれる。

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            <本堂から書院、寄付を望む>
書院は寺での行事に欠かせない空間で、和尚からのたっての希望で京間で整えている。昨今は、茶の湯の広間に似た簡略された形も多いが、ここでは書院としての格式を重んじて纏めてみた。
内部は主室12.5畳と7.5畳の次の間からなり、床と棚、付書院を設ける。床は張り付け壁として唐紙を貼り、既存の本堂の床とのバランスで決めた。床柱は杉の四方柾、長押や柱などの見付も杉の柾目で統一した。これが南部材の良いところで、ほのかに紅が差す赤みと、柾目のきりっとした杢目が一層空間を引き締めてくれる。
建具の框も真塗りとして、付け子を回して障子桟を組入れている。建具にも杉を用い、書院の建具だけを桧とした。
茶の湯も行えるように、主室、次の間ともに炉を切っている。床框は山中塗の前端春斎さんが塗りを寄贈してくれ、画竜点睛となった。

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               <書院床周りを見る>
(つづく)
  (前田)