千葉県建築文化賞受賞

ひと雨ごとに春が近づいてくるのが分かります。
土のにおいや、温気が立ち上るこの空気が、たまらなく躍動感を刺激します。
皆さまお変わりありませんか。

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                 <庭から見る建物全景>
このたび、第23回千葉県建築文化賞に、千葉W別邸としてHPで紹介した「松戸の家」が優秀賞を受賞しました。こうした数寄屋普請が、建築賞を受賞することは極めて希だと思いますが、建築における理解のもと、このような賞をいただけたことは大変嬉しく思います。
日本庭園がすでに7割ほど完成している中で、この庭に合わせた建築の計画をと依頼されて取り組みました。周囲の庭との繋がりや、樹木、庭石の配置、それらの意味を建築から再度捉え直し、その姿を室内空間に生かしていくといった、初めて経験する計画アプローチでした。最終には建築の方からも、庭との接点を提案できたことで、深く内外が一体となった空間に結実できたのではないかと思います。
池に張り出す濡縁の出や、庭との若干の高低差をどのように納めていくかなど、さまざまな場面で庭師や施主と意見を戦わせましたが、話していく過程で、この仕事にかかわる全ての人の意識をひとつにする環境を構築できたことは、仕事の完成度と相まって、今でも印象深く残っています。
時折に伺って感じる四季折々の風情はまさに「坐忘」で、時が経つのを忘れさせられます。日常の喧噪から離れ、光や風、樹木の香しさが優しく包んでくれる、そんな空間になったように思います。

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                <リビングから庭を望む>
建物の詳細については、以前に小欄で紹介したのでご参照ください。
下記に審査講評も添えました。
現代に生きる木の建築を作る、今後ともそれを信条に邁進して参ります。
ご批評ご鞭撻など遠慮なくお聞かせいただき、これからの設計活動を通して還元できるよう、今後とも努めていきたいと思います。
  (所員M)

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               <池に張り出す和室前の濡縁>
<審査講評>
普請道楽で受け継がれる伝統木造
230平方メートルほどの伝統的な木造平屋の住宅である。
銘石および銘木のコレクションがそもそもあって、それらを散りばめた作庭が先行していた。庭園に調和した建物をつくってほしいという依頼だったという。園路を行くと、さまざまな表情の石が語りかけてくる。庭の随所からの建物の見え方や、建物からの庭の眺めが入念に検討されており、完成度の高い空間を作り出している。
施工は青森の工務店である。南部地方特産の赤松を活かし、青森で数寄屋大工を育て、東京方面でも複数の仕事をしてきた。このような普請道楽のおかげで、高い技術の求められる建築がつくられることで、森林が維持され、後継の職人たちの働く場ができる。その価値を評価した。
「日本人らしい生活の姿を、現代に創出する」ことが、設計者の前田伸治さんの志だという。
確かに、続き間のリビングと十畳の和室や池に張り出した濡れ縁に身を置くと、床に座して心地よい住まいのくつろぎが感じられるものの、奥へと深く引き込まれる日本的な空間感覚に少々欠ける。プランから伺い知る限り、その背面には普通の近代的な高性能住宅部分が隠されている。
交通量の多い県道に面し、農地や戸建て小規模団地、ゴルフ場、ロードサイド型商業施設など、多様な土地利用が脈絡なくパッチワーク状に散りばめられている地域にある。閉ざされた門扉の向こうに何があるのか、行き交う大型車両を背に、門前の鞍馬石の巨大踏石から想像を巡らすしかない。こうして結実した職人の伝統技術の世界を、郊外都市化した松戸という地域の空間の質を高めることに、どうにか結びつけられないものだろうか。
(岡部 明子)